部活動を始めたり、新しい同級生と出会ったり。学校の新年度には、卒業すると味わえなくなる特有の高揚感や緊張感がありました。今回のテーマは「青春」。爽やかなスポーツ小説から、胸がギュッと苦しくなる作品まで、幅広い6冊を紹介します。(司会は文化部、藤井沙織)
座談会メンバー
百々典孝さん(紀伊国屋書店梅田本店)/大橋崇博さん(流泉書房)/佐々木梓さん(ジュンク堂書店大阪本店)
王道やはっぱり運動部⁉
藤井 百々さんと佐々木さんは、ザ・青春!という選書が1冊ずつあります。
百々 高校の剣道部が舞台の『武士道シックスティーン』(誉田哲也著、文春文庫)。3歳で剣道を始めて宮本武蔵を心の師とする香織と、もともと日本舞踊をしていて勝敗にこだわらない早苗の2人が主人公。中学最後の大会で、香織は早苗に負けているんです。
藤井 青春スポーツ小説の王道ですね。
百々 天才と、努力する秀才型とのバーサス。ライバルでありながら、次第に友情を深めていく。この関係性は女子でないと描けないと思う。
大橋 確かに、男子だと「何クソ」という思いの方が強く出そう。
百々 僕も中学まで剣道をしていましたが、剣道の勝敗は一瞬で決まる。そのヒリヒリ感も伝わってきます。「青春小説といえば絶対これ」と、手に取るのがちょっと恥ずかしい文章がついていますが、ぜひ。
「文化部団体競技」ならでは
佐々木 私は『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ』(武田綾乃著、宝島社文庫)。弱小の吹奏楽部が、新たな顧問のもとで全国を目指す。私も中学、高校と吹奏楽部でしたが、ものすごくリアルです。例えば誰が大会に出るのか決めるときは、技術面だけでなく、人間関係がどうしても大きく関わる。〝文化部団体競技〟ならではのお話です。
男子心くすぐるキケンな行為
藤井 大橋さんの選書は有川ひろさんの理系男子の物語『キケン』(KADOKAWA/角川文庫)。
大橋 「キケン」と称される機械制御研究部。度胸のある新入部員を入れるために、花火から集めた火薬を校庭で爆発させて入部希望者をふるいにかけたりと、もうメチャクチャやっています。
百々 これは男子心をくすぐるよな! 何の意味もないことに夢中になれることが大事。
藤井 「男子ってアホやな」と思いつつ、どこかでうらやましく思うやつですね。
大橋 「キケン」はアホに技術が加わっているから、さらに面白いことになる。学祭ではラーメンを100万円以上売り上げたり。僕はテニス部が厳しくて文化祭に参加できなかったから…。
藤井 懐かしの青春と、憧れの青春ですね。
少年たちの生長譚
大橋 もう一冊は『ぼくらのサイテーの夏』(笹生陽子著、講談社文庫)。小学6年の主人公が、階段の何段上から飛び降りられるかを競うゲームで同級生に負けて、けがまでする。
藤井 またしてもやんちゃですね。
佐々木 懐かしい! 女子もやっていました。
大橋 罰として、仲の悪いその同級生と夏休みに毎日、プール掃除。その中で、互いに家族が抱える事情を打ち明けるようになっていくんです。2人の成長過程が見えるようで。少しずつ物事がいい方に進んでいって、とてもいい夏を過ごしたんだなと思えます。
百々 2冊とも女性作家なのに、男子のアホなところを書けるのがすごい。
最後に深い闇…「ホラー版青春」
百々 僕のもう一冊は、乙一(おついち)さんの『夏と花火と私の死体』(集英社文庫)。9歳の主人公が殺されて、友達の兄妹が死体を隠そうとしては何度も見つかりそうになる。死体になった主人公の目線で話を展開するというのが天才的。
藤井 話の内容と、表紙の絵柄の雰囲気のギャップがすごい。
百々 それが、えぐい話なのに表紙の絵の通り、ほんわかした雰囲気を感じさせながら進むんです。その兄妹の兄が19歳のいとこのお姉さんに憧れていたり、男子だけの秘密基地みたいなのがあったり。だからこそ、最後に深い闇を知って世界観が変わる。乙一さんの描くホラー版青春かな。
中学2年生の息苦しさ
藤井 佐々木さんのもう一冊は、中学2年生の物語。読んでいて苦い気持ちにもなります。
佐々木 『オーダーメイド殺人クラブ』(辻村深月著、集英社文庫)。いわゆるカースト上位のグループにいる女の子と、真逆の、「昆虫系」と呼ばれる同級生の男の子。2人とも猟奇的なものにひかれる「中二病」で、「特別な存在」になるために殺人事件の緻密な計画を練っていきます。
藤井 女の子がささいなことで急に無視されたりしながらも、そのグループにいようとするのがつらい。
佐々木 クラスでの小競り合いも、中学生という感じがしますね。物語の舞台が田舎というのもあって、主人公たちは狭いコミュニティーの中を必死に生きている。高校生になると、この気持ちはもう生まれないだろうなという、絶妙なラインが書かれています。
藤井 青春というのは、みずみずしいだけではなかったですね…。
佐々木 あまり掘り起こさないでほしいと思うこともありますね。
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