天皇陛下は5月1日、即位から5年を迎えられる。代替わり後、間もなく始まった新型コロナウイルス禍ではオンラインも活用しながら、皇后さまとともに27道府県をご訪問。各地の人々との交流を通じ、令和の象徴としてのあり方を模索し続けてきたこの間の足跡を、歌会始で披露された御製(ぎょせい)とともに振り返る。
代替わり後、天皇、皇后両陛下の初の地方ご訪問となったのは、令和元年6月の愛知県。上皇ご夫妻から引き継いだ恒例の地方公務「四大行幸啓」の一つ、全国植樹祭に臨席されるためだった。
その後も、各地へ赴かれた陛下と皇后さま。同年12月には、台風19号で洪水被害などに遭った宮城、福島両県を慰問された。お二方のまなざしの先には常に、苦難に見舞われ、社会的に弱い立場にある人々とともに、次世代を担う若者や子供たちの姿があった。
令和2年
学舎(まなびや)に ひびかふ子らの 弾む声 さやけくあれと ひたすら望む (お題「望」)
ところが、2年春以降のコロナの感染拡大により、恒例の地方ご訪問は相次いで延期や見合わせを余儀なくされた。外国からの賓客と親しく交流される機会も激減した。
令和3、4年
人々の 願ひと努力が 実を結び 平らけき世の 到るを祈る (お題「実」)
世界との 往き来難(がた)かる 世はつづき 窓開く日を 偏(ひとへ)に願ふ (お題「窓」)
陛下は3年、4年と続けて、感染収束を願う気持ちを御製に詠まれた。
皇室の和歌の相談役で、歌人の永田和宏氏は「社会全般のことを歌いながら、早く国民に会いたいという、天皇としての切実な思いも込められているのではないか」とみる。
そんな中、皇室と国民との新たな交流の手段として取り入れられたのが、オンラインだった。
コロナ対応に当たる医療従事者らとの懇談を皮切りに、3年には前年の豪雨災害で被災した熊本県や、東日本大震災から10年を迎えた東北3県の被災者らともオンラインでご交流。画面越しに参加する形で、恒例の地方行事にも臨まれた。
令和5年
コロナ禍に 友と楽器を 奏でうる 喜び語る 生徒らの笑み(お題「友」)
陛下は5年の歌会始で、オンラインで交流した高校生の、生き生きとした表情を詠まれた。
感染対策を取りつつ、社会活動を継続する「ウィズコロナ」の定着とともに、4年10月の栃木県ご訪問から、直接交流が徐々に再開。5年の四大行幸啓はいずれも現地を訪れることが実現し、4年ぶりに従来の地方ご訪問の流れが復活した。
令和6年
をちこちの 旅路に会へる 人びとの 笑顔を見れば 心和みぬ(お題「和」)
今年の御製で、各地の人々から受けた歓迎について詠まれた陛下。永田氏は「人々と会うということを、天皇としての務めの中心に据えられていることが、改めてよくわかるお歌」とした上で、こうおもんぱかる。
「いかに天皇というお立場であっても、実際に行くまで、どのように受け入れられるかという不安もおありだったのではないか。笑顔で迎えられたことへの、安堵(あんど)のお気持ちも感じられる」(緒方優子)
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