プラットホームの約3分の2がトンネル内という独特な構造の武田尾駅 =兵庫県宝塚市

JR大阪駅から区間快速で約35分。途中駅の同宝塚駅からは10分足らずで、武庫川の渓谷を望み、都会の喧噪(けんそう)を忘れさせるJR福知山線の高架駅「武田尾駅」(兵庫県宝塚市)が現れる。鉄道マニアからは〝兵庫の秘境駅〟と称される武田尾駅。プラットホームの約3分の2がトンネル内という独自の構造に加え、周辺には旧国鉄福知山線の廃線跡を巡るハイキングコースなどもあり、同駅とその周辺は人気の観光スポットとなっている。

JR宝塚駅から下りの区間快速に乗車して約10分。プラットホーム南側が第2武庫川橋梁(きょうりょう)上にあり、北側が第1武田尾トンネル内にある武田尾駅に到着した。先頭車両に乗っていたため、降り立ったプラットホームはトンネル内のほうで、トンネル内を流れる冷たい風を感じた。

神秘的な光景

プラットホームで乗ってきた下りの電車をそのまま見送ったが、その先に続くトンネルの暗闇の中へと電車が消えていくようだった。しばらくすると反対側の上りプラットホームに電車の到着を告げる構内アナウンスが。さきほど下りの電車が消えていったトンネルの暗闇から小さな光が現れると、その光は徐々に大きくなってくる。上り電車の前面がはっきりと認識できるようになり、そのまま反対側のプラットホームに到着した。こうした一種、神秘的な光景が見られるのも〝秘境〟と称されるゆえんかもしれない。

JR福知山線「武田尾駅」。橋梁上とトンネル内にまたがるかたちでプラットホームがある=兵庫県宝塚市

その後、橋梁上のプラットホームとトンネル内の長さの割合を知るため、プラットホームの端から端まで歩いてみた。橋梁上のプラットホームは83歩、トンネル内は170歩で、その割合は約1対2だった。

同駅の開業は明治32(1899)年1月。昭和61(1986)年8月、複線・電化工事に伴う線路切り替えで現在の場所に移転。プラットホームがトンネルと橋梁上にまたがる駅となり、同年11月に無人駅となった。

改札口は1カ所。自動券売機と自動改札機が1台ずつと行き先表示器はあるが、切符で改札口を出るときは自動改札機では回収できず、専用の回収箱に乗客が投入する。また、プラットホームから改札口まではエレベーターやエスカレーターはなく、階段を利用するしかない。

廃線跡を歩く

ハイキングコースの途中にあるトンネル。中はかなり暗い=兵庫県宝塚市

改札口を出て右側に駅前駐車・駐輪場の管理事務所があった。この日、事務所に詰めていた管理人の男性(75)は「春や秋のハイキングシーズンには駐車・駐輪場の一時利用者は多いが、通勤や通学での定期利用者は80人ぐらいかな」と話していた。

駅周辺の観光スポットとして人気が高いのが「旧国鉄福知山線廃線跡」で、ハイキングコース(約4・7キロ)となっている。昭和61年に旧国鉄福知山線が廃線となり、廃線跡は立ち入り禁止となっていたが、手軽に自然が満喫できる隠れたハイキングコースとして知られるようになり、無断立ち入りのハイカーが増加。平成2年、ハイカーの自己責任を条件にハイキングコースとして整備されたという。

旧国鉄福知山線廃線跡の枕木が続くハイキングコース=兵庫県宝塚市

JR武田尾駅から徒歩約10分で、コースの出発点「廃線敷入口」に到着。かつて線路があったことを実感させる枕木が敷き詰められたコースをしばらく進むと、トンネルが姿を現す。コースには全部で6カ所のトンネルがあり、これらトンネル内を歩けることも人気となっている。

ハイキングコースの途中にある第2武庫川橋梁=兵庫県宝塚市

照明などは設置されていないため、いずれのトンネルも中はかなり暗く、足元を照らす懐中電灯は必携だ。時折、天井から滴り落ちる水滴の音がトンネル内の暗闇に鳴り響き、独特の雰囲気を醸し出していた。

コースのほぼ中間地点で引き返し、出発点近くにあるハイカーらに人気の飲食店「畑熊(はたくま)商店」を訪れた。ここでは地元食材を使った田舎料理などを楽しむことができる。店主の畑田宏実さん(68)は「子供のころから住んでおり、武田尾駅もよく利用している。ここには川もあれば山もある。そんな自然を感じながら、都会に住む人が時間を忘れてホッとする店にしたい」と話していた。(香西広豊)

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