サプリ使用で子供が眠れない根本原因が分からなくなる懸念も LIGHTFIELDSTUDIOS/ISTOCK
<アメリカでは幼い子を眠らせるためにメラトニンを与える保護者が急増しているが、寝付けないときは薬を飲めばいいと教えてしまうのは問題だ>
アメリカでは5~12歳の児童のほぼ5人に1人が、寝付きを良くするためにメラトニンの市販サプリを飲んでいるらしい。コロラド大学睡眠・成長研究所のローレン・ハートスタインらの調査で、そんな実態が明らかになった。
論文はJAMA(米国医師会報)小児科版の2024年1月号に掲載された。
メラトニンは体内で自然に生成されるホルモンの一種で、夜間に分泌量が増えて人を睡眠に誘うことが知られている。しかし合成メラトニンの安全性はまだ十分に確認されておらず、しかも市販品はサプリ扱いなので米食品医薬品局(FDA)の規制も緩い。
とはいえ保護者はメラトニンなどのサプリに頼らず、スマホを見る時間を制限するなどして自然な睡眠習慣を付けさせるよう努めてほしい。ハートスタインはそう語った。
今回の調査は23年上半期に保護者1000人を対象に実施。
「過去30日間にメラトニンを与えたことがある」と回答したのは5~9歳児の保護者で18.5%、10~13歳児では19.4%。未就学児でも6%だった。ちなみに17~18年に実施した調査では、わが子にメラトニンを与えていると回答した保護者はアメリカでも1.3%にすぎなかった。
メラトニンの副作用はごく限られているが、とハートスタインは言う。
子供がメラトニン漬けだと「子供たちの睡眠障害の本当の原因が分かりにくくなり、正確な診断と治療の妨げになりかねない。また健康な睡眠習慣を身に付けるべき時期に、寝付けないときは薬を飲めばいいと教えてしまうのは問題だ」。
サプリより健康な習慣を
ちなみに23年4月のJAMAに発表された別の研究によれば、甘く味付けされたメラトニンのサプリ25種類を調べたところ、22種類でメラトニンの含有量がラベルに表示された量と異なっていた。3倍も多いものもあれば含有量ゼロのものもあったという。
またグミのようなタイプのサプリだと、幼い子はお菓子のつもりで食べてしまいがちだ。結果、12年からの10年間で幼児のメラトニン摂取量は6倍以上に増えたという疫学的データもある。
成長過程、とりわけ思春期前の子がメラトニンを大量かつ継続的に摂取することに伴うリスクはまだ知られていない。残念ながら既存のデータは少なく、研究報告の結果にもばらつきがある。
ハートスタインは、「子供の健康的な睡眠を助けるには、就寝前の適切な習慣を身に付けさせることが大事だ。寝る前には明るい光や電子機器の画面を見る時間を減らし、スムーズに眠りに移行できるようにするのがいい」と述べ、さらにこう続けた。
「もっと根深い原因の(睡眠障害のような)懸念がある場合には、保護者が小児科医や睡眠の専門家に相談して、効果的な介入方法を学んでほしい」
今回の調査報告はサンプル数も少なく、必ずしも全米規模でのメラトニン服用状況を反映しているとは言えない。それは論文の著者らも認めているところだ。
しかし眠れない子が増えていて、そういう子がメラトニンに頼る例が増えているのは事実。これは間違いなく憂慮すべき状況だ。
<ニューズウィーク日本版別冊『世界の最新医療2024』より>
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