5月に発売された北九州名物「堅パン」の土産用パッケージ(右端は従来の5枚入りパック)=福岡市で2024年4月24日、田後真里撮影
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 パッケージには「健康はアゴから」のキャッチフレーズ。袋を開けて食べようにも前歯ではかみ切れない想像以上の硬さにまず驚く。顎(あご)と奥歯でなんとか砕いて味わってみると、意外な優しい甘さが広がり、これまた驚かされる。

 北九州市の名物「くろがね堅(かた)パン」は、名刺サイズの平たい形の焼き菓子だ。その歴史は日本の近代化を支えた官営八幡製鉄所にさかのぼる。大正期の1920年代、従業員の栄養補給のために作られた。昼夜問わず稼働する高温多湿な製鉄所内で、彼らは作業服の胸ポケットに堅パンを入れ、かじりながら働いた。

 1枚あたりのエネルギーは111キロカロリー。体重60キロの人が山登りで16分程度歩いて消費する熱量に相当する。

 生地は小麦粉、砂糖、練乳を混ぜて寝かせた後、プレスしてカットし、オーブンで焼き上げる。材料も工程も当初から変わらない。独特の硬さは、水分を極限まで減らし、焼いた後に冷却することで生まれる。

 堅パンが製鉄所の外に飛び出したのは戦後の65年ごろ。スーパーなど小売店に並び市民の暮らしに溶け込んだ。子どもの歯固めにいいほか、1年半の保存が可能で非常食にも向いている。

土産用の新パッケージをアピールするスピナ堅パン課の浜口勝克課長=北九州市で2024年4月21日午後11時8分、田後真里撮影
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 現在は製鉄所の購買部門にルーツを持つ地元企業スピナ(同市八幡東区)が、日本製鉄九州製鉄所八幡地区の敷地内にある工場で製造している。

 100年愛された味をつなごうと、この春、新しいパッケージの土産用が登場した。箱には堅パンと鉄の硬さを比べたユニークなイラストがあしらわれている。堅パン課の浜口勝克課長(57)は「かむときにはくれぐれも気をつけて」と念を押した。【田後真里】

くろがね堅パン

 プレーンは5枚入りと10枚入り。災害時に椅子やバケツになるスチール缶(170枚入り、5年保存可能)も。土産用は3枚入り500円、8枚入り1000円(税抜き)。小倉駅で発売中。スピナ(093・681・7350)。

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