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<二日酔いには、水を飲む?、サウナ?、翌日に走る、でも、たくさん寝る、でもない...健康的にお酒を楽しむには、どんなことに気をつければいいのか>
筑波大学医学医療系の吉本尚准教授は「飲む量やアルコール度数を減らすといった『減酒』を意識したほうがいい。ただ、健康を考えるなら飲まないのに越したことはない」という――。
※本稿は、吉本尚『減酒セラピー』(すばる舎)の一部を再編集したものです。
【「酒は百薬の長」は本当か】
お酒にまつわる「空気」の変化は、日本だけのものではなく世界的な潮流です。確かにお酒には人と人との出会いを演出したり、料理をおいしくいただけるといった良い面もありますが、「実は少量でも飲むこと自体に害があるんじゃないか?」と考える人が増えてきたのです。
一般の生活者の実感からも、アルコールに関する研究者や医師たちの知見からも、そうしたことが近年、課題として浮かび上がってきたという感じです。昔から「酒は百薬の長」と言われてきました。「少し飲んだほうが長生きする」なんて、よく聞きますよね。
でも、お酒好きの免罪符になってきたこの言説には誤りがあることも、今、研究者の間では通説になっています。
飲酒には、血流を良くするという効果が確かにあります。たとえば下のグラフのように、心疾患や脳梗塞などの血管に関係する疾患には、少量の飲酒が良い影響をもたらすことを示しているようにも見えました。
しかし、以前から研究者の間では、飲酒ゼロの人の死亡リスクが、飲む人よりも高くなるのはおかしいという指摘がありました。
【「少し飲んだほうが長生き」は幻想】
そんな中、2018年、世界的医学雑誌ランセットに、新たな研究が発表されます。この研究によって、純アルコール量10g(ワイングラス1杯程度)くらいまでは疾患リスクの上昇はあるものの緩やかで、それより量が増えると疾患リスクは上昇傾向を示すことが明確になりました。
『減酒セラピー』より図表1のように、以前はグラフの形がアルファベットのJに似ていることから、少量の飲酒が体に良いことを「Jカーブ効果」と呼びましたが、今はこのような形にはなりません。
つまり、「少し飲んだほうが長生き」のJカーブは幻想で、「健康で長生きしたいなら、お酒は少量。ベストはゼロ」ということです。
【なぜ休肝日が必要なのか】
お酒を減らすというと、すぐに思い浮かぶのが「休肝日」でしょう。多くの方が、健康診断の肝臓に関する数値を気にしながら飲んでいます。
肝臓の解毒作用に関与するγ-GTPの値が正常範囲なら、「肝臓は元気なんだからこのまま飲み続けても大丈夫♪」「数値が悪くないならお酒を減らさなくてもいいんじゃない?」と一喜一憂しています。
長い飲酒習慣の中で「だんだん酒量が増えてきた」というのは、脳の報酬系が「もっと! もっと!」と刺激を求めることによって起きた現象と考えるのが妥当です。
あるいは、迎え酒のように「飲まないと気持ち悪いので飲む」というのも、アルコールの刺激が切れてしまったために起こる感覚です。
お酒を飲むと気持ち悪さがすっと解消されるので、また飲む。この状態になると、かなりアルコールに対する依存性が高い状態と言えます。
実は、肝臓はもともと修復機能が高い臓器で、毎日飲酒していても少量であればそれほど傷むわけではありません。ではなぜ、週に1日か2日、お酒を飲まない日を作ることが大事なのでしょう。
お酒を毎日飲んでいると、脳の報酬系と呼ばれる神経系が刺激されます。飲酒でこの報酬系が満たされると、「楽しい」「気持ちいい」「幸せだ」といった感覚が引き起こされます。すると脳はしだいにこの感覚を記憶し、もっと刺激を求めるようになるのです。
長い飲酒習慣の中で「だんだん酒量が増えてきた」というのは、脳の報酬系が「もっと! もっと!」と刺激を求めることによって起きた現象と考えるのが妥当です。
あるいは、迎え酒のように「飲まないと気持ち悪いので飲む」というのも、アルコールの刺激が切れてしまったために起こる感覚です。お酒を飲むと気持ち悪さがすっと解消されるので、また飲む。この状態になると、かなりアルコールに対する依存性が高い状態と言えます。
【本当は脳を休ませることが大事】
脳の報酬系には多種類の神経伝達物質があり、それぞれが複雑に機能しています。少し専門的になりますが、飲酒量と脳内メカニズムの関係について、ショウジョウバエをモデルに行った東北大学の研究を紹介しましょう。
この研究では、アルコールを与え続けたハエと与えなかったハエを比較して、脳内のメカニズムを観察しました。アルコールを与え続けたハエは、脳内で快感を伝達する神経物質であるドーパミンの受容体が増加していたのです。
『減酒セラピー』より生物がアルコールを摂取することによって快く感じるのは、脳内の報酬系と呼ばれる神経系が活性化するためですが、この報酬系の中で中心的な役割を果たしているのがドーパミンです。
アルコールのみならず、麻薬や覚せい剤などの依存を形成する薬物にはドーパミンの放出や受容を活発にする作用があり、そのためこれらの摂取・使用が快感をもたらします。
この研究でアルコールを与え続けられたハエは、ドーパミン受容体の増加と同時に、アルコールに対する嗜好しこう性が高まりました。
つまり、脳の報酬系が乱れ、アルコールの摂取を好むようになったのです。人間もこれと同じです。お酒を飲み続けていると脳の報酬系が刺激され、ますますお酒が欲しくなります。
ですが、飲酒による刺激が途切れるとこの興奮が元に戻り、脳の報酬系は正常化します。週に1日か2日だけお酒を飲まないことで、脳への刺激をマイルドに保つことができるのです。
だから、肝臓を休ませる「休肝日」も大切ですが、お酒をおいしく飲み続けるために意識してほしいのは定期的に「脳を休ませる」こと。大切なのは「休脳日」なのです。
【どうすれば二日酔いは治るのか】
「お酒と一緒に水を飲むと、アルコールの分解が速くなる」。お酒の場で、よく聞くフレーズではないでしょうか。ところがこれは誤解です。
減酒の面からいって、お酒と一緒に水を飲むこと自体はおすすめです。確かに、飲んだ水の分、お酒の総量を減らしやすくなります。脱水症状を防ぐこともできます。しかし、水がアルコールの分解を助けるわけではないのです。
飲んだ翌朝、起きられない、頭が痛い、吐きそう。飲む量をセーブできないと二日酔いに襲われます。飲み過ぎれば、いくら水を飲んだところでお酒は体に残ってしまいます。血中に溶けたアルコールの代謝は、主に肝臓で行われます。
アルコールが体外に排出されるまでの時間の目安は、ビール缶1本(500ml)、焼酎グラス1杯(150ml)、日本酒1合(180ml)は約4~5時間。ワイングラス1杯(100ml)は約2時間。ウイスキーならロックでグラス1杯(150ml)は約8時間と言われています。
『減酒セラピー』よりただしこれらは体重60kgの人を基準とした数値です。アルコールが抜ける時間は、飲んだお酒の種類と体内でアルコールを分解する能力によって違ってくるのです。
翌日に響かないよう、対策をしているという方も少なくないでしょう。たとえば、飲んだ後にサウナで汗をかく。翌朝、お風呂で湯舟に浸かる、必ずランニングをする。
残念ながらこれらも俗説で、効果は期待できません。脱水症状や心臓への負担などを考えると、むしろ危険です。
【ただひたすら待つしかない】
さらに言えば、飲んだ後しっかり睡眠をとればアルコールの分解速度が速くなると考えている人が多いと思いますが、実はその反対で、睡眠はアルコールの分解速度を和らげ、酔いから醒める速度を遅らせてしまいます。
時間が経過するという意味ではもちろん意味があるのですが、飲んだ後起きているのと眠るのとでは、眠るほうがアルコールの分解が進むというのは間違いです。
「たくさん飲んでも二日酔いにならない裏ワザが知りたい!」その気持ちはよくわかりますが、おいしく飲んで日々のパフォーマンス低下を招かないためにも、やはりおすすめは減酒なのです。
飲んでいったん体に入ってしまったアルコールは、体内で代謝が終わるまでは抜けません。待つしかないのです。運転や機械操作など、お酒が残った状態での勤務が禁じられている仕事の場合は、一気に信用を失ってしまいます。
【二日酔いは社会問題化していく】
また、たとえデスクワークで、二日酔いのつらさを我慢して出社しても午前は席に座っているだけでやっとでしょう。自分は普段通りに仕事をしているつもりでも、周囲にはバレバレかもしれません。
出勤しているにもかかわらず、「心身の健康上の問題」により十分にパフォーマンスが上がらない状態を「プレゼンティーズム(Presenteeism)」といい、近年、この状態にある従業員の生活改善に取り組む企業が増えています。
プレゼンティーズムによるパフォーマンス低下は個人の問題のみならず、会社全体の経済損失につながることが明らかだからです。二日酔いも、「心身の健康上の問題」の一つとして、これからもっと重要視されていくのではないでしょうか。
吉本尚『減酒セラピー』(すばる舎)
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