20日から東京・上野の森美術館で創立40周年記念企画「未来に向かう産経国際書会-大作を中心に-」が開催される。近年、書道界は大作展がはやっている。そこには書を身近に感じてほしいという主催者の努力が感じられる。
私もここ数年、大作を発表する機会に恵まれ、多くの方々に作品を見ていただいているが、会場で質問されるのは「どんな筆で書くのか、書く場所は」など制作環境のことが多い。それが糸口で書に興味を持ってもらえればと思い、身ぶり手ぶりで説明をしている。
今展も四畳ほどの紙に、太さ10センチ、毛の長さが30センチの筆で、一気呵成(かせい)に漢字一字を大書した。大作は、起筆の迫力や筆を大きく動かすときの飛沫(ひまつ)が、動的な線を生み出す。これが大作の醍醐味(だいごみ)といえるが、そこに大きな落とし穴が潜む。
亡師小川瓦木先生は、生前、著書『字かきやろのねごと』の中で「体力相応の場で制作する場合、肉体的にも精神的にも爽快感がある。『表現した』という精神の開放と『適度に体を使った』という運動感が快適さを呼び起こしてくれるのだろう」と述べている。
大作を書いたときの爽快感は格別であるが、完成度が低く、大味な作になっていることも多い。線と造形による人間性の表現を目指す前衛書道「墨象(ぼくしょう)」にとって、「大作」が、単に観客動員対策にならないよう自らを戒め、新たな書表現の可能性を見いだしたい。
(産経国際書会副理事長 町山一祥)
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