司牡丹酒造社長の竹村昭彦さん=高知県佐川町で2024年4月23日、前川雅俊撮影

 土佐弁でシェアを意味する「なかま」。お酒や皿鉢(さわち)料理をなかまにすれば、誰でもいつの間にか仲間になる――。

 高知が育んできた宴席文化を守り育てようと、県内の経営者らが2024年1月に設立したNPO法人「土佐伝統お座敷文化を守る会」の理事長を務めている。創業400年を超える高知最古の蔵元「司牡丹酒造」(高知県佐川町)の社長で、県酒造組合会長として県内18蔵元のまとめ役でもある。

 「見知らぬ人に杯を差し出してもOK。お互いに酒をつぎ合えばコミュニケーションが成り立つ。一つの杯を通して何かが混じり合っているような気がするんですよ」。コロナ禍で人と人とが触れ合う機会が減ったことで、高知の宴席文化の大切さに改めて気付いたという。

 「豊かな食、それを引き立てるうまい酒、底抜けに明るい人と独特の宴席。どれも高知にとっては大切なものだけれど、放っておくと廃れてしまう。すべてを融合して磨き上げれば、国内外から高知に人を呼び寄せる強力なコンテンツになる」と力を込める。

酒需要の低下に危機感

 減り続ける国内の日本酒需要に対する危機感もある。ピークの1973年に年間170万キロリットルを超えていた国内の出荷量は、2022年には約40万キロリットルと4分の1以下になった。最近、若者を中心にお酒を飲まない人も増えている。

 高知県では20年ほど前から県酒造組合と県工業技術センターが連携し、全蔵元の仕込みの分析データを共有することで県全体の日本酒の品質を上げてきた。取り組みが奏功し、22年の全国新酒鑑評会で県内から出品した12点のうち8点が金賞に選ばれ、金賞受賞率66・7%で都道府県別1位になった。高知の酒の品質の高さが、日本酒ファンの間でも浸透してきた。

 「カツオのたたきに土佐の酒を合わせれば、おいしさは倍増する。『なるほど』と思ってもらえば、新しい需要を創造できるんです」。縮んでいくパイを奪い合うのではなく、高知ならではの楽しみ方を提案することで裾野を広げていきたいと考えている。

酒飲みの美学「宴中八策」

 「土佐伝統お座敷文化を守る会」の設立準備を進めていた23年、高知市の酒造会社社長や中学教諭らによる飲酒運転、県選出国会議員の酒席の場での暴行問題などが相次ぎ表面化した。宴席文化を世界に向かって発信していくためには、飲酒モラルを高め、飲まない人でも楽しめるよう「伝統の現代化」を進めることが必要だと痛感した。

 酒飲みの美学として、郷土の英雄・坂本龍馬の「船中八策」ならぬ「宴中八策」を練り上げた。酒量をわきまえ、憧れられる飲み方を心がける▽飲めない人に無理強いはしない▽健康被害や健康効果などの正しい知識を得るよう努める▽泥酔者が出た際は、1人にせず適切な初期対処を取る▽誹謗中傷・アルハラ・暴力行為をしない――などの8項目。今後、周知徹底を図っていく考えだ。【前川雅俊】

竹村昭彦(たけむら・あきひこ)さん

 高知県佐川町出身。一気飲みブームだった学生時代、一番嫌いな飲み物は日本酒だった。ミュージシャンの織田哲郎さんはいとこ、漫画家の黒鉄ヒロシさんは父のいとこ。

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