京都に拠点を置くアパレルブランド「MITTAN(ミッタン)」が掲げるのは、長く着られる服作りだ。それは、短いサイクルで服を消費する現代への反抗でもあると、ブランドを率いるデザイナーの三谷武さんは話す。
ブランドの立ち上げは2013年。環境に配慮して作られた天然素材を多く採用し、その機能性を生かしたシャツやニット類、パンツ、雑貨などを手掛ける。23年11月には京都大学の近くに初の直営店を開いた。華道の稽古場だった建物を改装してあり、古い公民館のようなたたずまいだ。店に入ると1階部分には修繕のアトリエがあり、ミシンが3台並んでいる。
内職でミシンを回す母の姿を見て育ったという三谷さんは、「服が身近な人の手で縫われるのを見て育った最後の世代」と自らを説明する。下の世代から、服が生活から遠くなってしまったと嘆く。「服は機械から出てくると思っている人もいる。知っている誰かが仕立てた服を着て、穴が開いたら直す。その感覚を取り戻したい」
店舗はその思いを実現させる拠点となる。営業日にはアトリエで服を修繕する様子を見ることができる。商品は染め直しや、買い取りも受け付ける。メーカーが価値を担保すれば捨てずに持ち込んでくれるのではという思いから、購入時の小売価格の2割で現金買い取りを保証する。
買い取った服はクリーニングや修繕・染め直しを経て再び店頭に戻る。「新作も昔の商品も同じように肯定したい」と、新品と再販品は分けずに並べる。修理に手がかかっているものは新品よりむしろ高くなることもある。
2階の売り場は竹製のハンガーポールに服がつり下げられているシンプルな空間だ。すべて左官仕上げの天井、壁、床の色合いは、土に含まれる鉄分が酸化してやがて黒くなっていくだろう。「服も店もコンセプトは同じ。変化を良しとする。新品が最も素晴らしく、だんだん価値がなくなる服は作りたくない」
ベージュや黒、白など自然な色合いの服の中、明るい黄色で目を引くパンツがあった。買い取ったのち、黄色の染料として使われる植物「福木」で染め直したという。元の色はベンガラ染めの山吹色だったため、2つの色が重なり合って少しオレンジがかっている。手に取ると、生地はひんやりとしている。春夏の定番品で、竹の繊維から作った「竹パンツ」が染め直されたものだった。
竹繊維は吸水性と放湿性に優れ、汗でぬれても乾きやすいのが特長だという。繊維が硬いためハリがあり、肌に密着しにくく夏でもべたつかない。「夏はこれしかはかないという声を聞くほど。色違いで何本も持つ人もいる」という。ミッタンではこうした竹素材を定番品として、16年から展開している。
竹は近年の環境意識の高まりを受け、様々に注目される素材だ。竹を使った繊維には、化学薬品を使って竹を溶解し、繊維にした竹レーヨンもある。竹レーヨンは溶解の過程で環境に負荷をかけるものもある。米国では小売り大手が竹レーヨンを使った製品を、環境に優しいイメージを打ち出して販売。米連邦取引委員会から欺瞞(ぎまん)的な訴求だと提訴されるなど、度々問題として取り上げられてきた。
ミッタンで使うのは竹を溶解せずそのまま使った、天然繊維だ。竹は繊維長が短く硬いため、それだけでは糸にしにくい。綿のわたと混ぜて紡績する方法が開発され、可能になったそう。原料の竹の調達しやすさから、ミッタンで扱う服は中国・四川省の竹を原料としている。
竹は日本でも身近な植物だ。しかし近年、放置された竹林が竹やぶ化し、対応に苦慮している地域も多い。こうした竹の活用方法の一つとして、繊維を取り出し、服を縫うことはできないのだろうか。
放置竹林に悩まされる地域の一つ、山口県に、素材としての竹の活用に取り組むエシカルバンブー(防府市)がある。同社を立ち上げた田沢恵津子さんにも話を聞いた。
エシカルバンブーでは20年、国産の竹から5〜7ミリ程度の長い繊維を取り出す技術を開発。この長さがあれば綿と混ぜずに竹100%の糸を紡げる。見せてもらった竹繊維はふわふわと柔らかい。竹繊維では難しいとされていたニット製品も試作し、有名デザイナーや企業から引き合いがある。
竹は近隣の山の所有者から買い取る仕組みを構築した。昨年には山口県を巻き込み、地域の竹の有効活用をめざすプラットフォーム「YAMAGUCHI Bamboo Mission」も立ち上げた。将来的には他地域での展開も見据えるが、大量に作ることは目標にしない。あくまでも竹林を手入れすることで、生物多様性に富んだ里山を保全することに軸を置く。管理の過程で出た竹の出口の一つとして、竹繊維を生産するという姿勢だ。
大量生産する中国や東南アジアと比べるとコストはかかる。「ある程度の価格設定をしないと、川上から川下までの人の生活が成り立たない。日本の森を守るための製品です」と田沢さん。ストーリー性の高さが付加価値になる。
一緒に工場近くの竹林を歩くと、あちこちにタケノコが顔をのぞかせていた。春にはタケノコを食べ、夏には竹を着て、その服を大切につないでいく。タケノコはそのような未来へ向かって伸びているようにも見えた。
沢田範子
吉川秀樹撮影
[NIKKEI The STYLE 2024年5月5日付]
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