気温29度。初夏を感じさせる日差しの中、東日本実業団陸上が18日に埼玉県熊谷市で行われた。
19日(日)国立競技場で開催されるタレント揃いのゴールデングランプリに陸上界が沸く中、その前日、熊谷では“日本人初の9秒台”桐生祥秀(28、日本生命)の姿があった。昨季の日本3位となる10秒03を出していたため、桐生も国立の舞台に立つ権利はあったが、注目度で言えば低くなる東日本実業の舞台を選んだ。
今年は冬季から室内レースに出場し、2月に60mで当時の日本記録を更新(6秒53)。さらに4月にはトップ選手のみ出場が許される“世界最高峰の陸上ツアー”ダイヤモンドリーグに2戦出場を果たした。国内レースではこの東日本実業団が初戦となった。
入念なウォーミングアップを終え、サブトラックから会場へ向かう導線では、こちらの取材スタッフに気付き笑顔で手を振るリラックスとしたムード。「パリが決まったらこの映像を使ってください」。その雰囲気から今日のレースは練習の一環ということが伺えた。
予選3組に登場した桐生は、スタートで出遅れるも20m付近ですでに後続を引き離し先頭に。50m付近では力を抜いて流すようにフィニッシュ。向かい風0.4mの中、タイムは10秒50。数字だけを見ると低調に思えるかもしれないが、このタイムでも桐生は手応えを掴んでいた。準決勝を棄権した桐生はレースから3時間後、取材に応じた。
「ダイヤモンドリーグに出場して以降、持病の腰痛から派生し神経痛のような脚の違和感が続いていた。その違和感がなくなって、ようやくここ2週間で練習が詰めるようになってきたところ。今日は動きの確認のためのレースで、スパイクを履き始めて3日目ということを考えれば感触は良かった」と前向きに捉えていた。
今年は勝負の五輪シーズン。強い思いもある中で今季については「コンディション不良でなかなかうだつの上がらないレースが続いて焦る気持ちもあった。他の選手たちが良いレースをする中でまだまだ出遅れている状況だが、ここで焦ると去年のようにケガに繋がり、日本選手権に出られなくなってしまう恐れがある。今季は、次の布勢スプリント(鳥取)と日本選手権(新潟)でタイム、参加標準突破(10秒00)を狙いたい」と話した。
また、100m日本記録保持者で桐生とはプライベートでも親交のある、長年のライバル・山縣亮太(31、セイコー)がパリ五輪出場を断念すると発表したことについては、「陸上で代表を志したときからトップにいた選手で、ずっと目標とする存在だった。僕らもリオ五輪から歳を取ったが、自分の可能性を信じ続けられれば、まだまだ活躍できる方だと思いますし、僕自身もそう信じてパリ五輪でも東京世界陸上でも頑張りたい」と切磋琢磨するライバルにエールを送った。
桐生はパリ五輪出場が決まれば、リオ、東京五輪と続き3大会連続の五輪出場となる。
「東京五輪では個人の100mで出場権を得られず、リレーでは決勝でバトンが渡らず、自分の中でこの3年間は特別だった。パリでは個人でもリレーでも活躍したい」
日本人初の9秒台スプリンターは、東京のリベンジに燃えていた。
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