落馬事故で10日に亡くなった中央競馬の藤岡康太騎手(享年35)は、頼れる「仕事人」だった。
印象深いレースがある。一つは、日本ダービー馬のマカヒキ(栗東・友道康夫厩舎(きゅうしゃ))を5年ぶりの勝利に導いた2021年の京都大賞典。コンビを組んで2戦目だった。
栗東トレーニング・センターが拠点の藤岡康騎手は特定の厩舎に所属しない「フリー」の立場。それでも、確かな調教技術と分析力の高さを買われ、強豪馬が集う友道厩舎の調教には欠かせない存在だった。藤岡康騎手がいなければ、全盛期を過ぎた8歳馬の復活優勝はきっとなかった。
もう一つは、昨年11月のマイルチャンピオンシップ(CS)だ。レース当日に騎乗予定の騎手が負傷したため、ナミュール(栗東・高野友和厩舎)の「代打騎乗」を急きょ依頼された。
ほぼ最後方で最後の直線を迎える肝のすわった騎乗。ため込んだエネルギーを爆発させるような強烈な末脚を引き出し、初騎乗の馬に初のG1勝利をプレゼントした。
自身はデビュー3年目の09年にG1制覇を果たしたが、そこからはビッグタイトルに縁遠い日々が長かった。マイルCSは実に14年ぶりのG1勝利だった。
それにもかかわらず、優勝後のインタビューでファンへメッセージを求められると、自分のことではなく「これからもナミュールの応援、よろしくお願いします」と締めた。人柄がにじむ言葉選びだった。
久々のG1勝ちのみならず、昨年は自己最多の63勝を挙げた。今年はそれを上回るペースで白星を重ねていた。3月には通算800勝を達成。さらなる飛躍が期待された矢先の悲運だった。(松本龍三郎)
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