スポーツ選手に繰り返されるひぼう中傷
プロ野球・DeNAの関根大気選手は、SNSで繰り返されるひぼう中傷の実態を明らかにした1人です。
4月26日、DeNA対巨人戦。
8回に関根選手の打席で、きわどい判定がありました。
結局、デッドボールと判定され塁に出ましたが、SNSでは「デッドボールじゃねぇだろ」などと判定に不満を示す投稿が相次ぎました。
試合後、関根選手はこのプレーをめぐりSNSに投稿し、試合でデッドボールをアピールしたことに理解を求めました。
「今後も際どいプレイなどがあるかと思いますが、嘘偽りなくその時自身が感じた、思った事実に対してアピールプレーをしていきます」
(関根選手の投稿 Xより)
同時にこの投稿で「誹謗中傷に関してはよく来ます」と記し、「あなたの家族全員が事故死で死んでほしい」などど、家族への危害を望んだり、自殺を促したりするメッセージが繰り返し寄せられた画像を添付して、ひぼう中傷の実態を明らかにしました。
サタデーウオッチ9
6/1(土) 午後9:00~放送
また、中日の福敬登投手は、試合に負けた後などに個人のアカウントのSNSに、中傷するものや、自身や家族の身の安全を脅かされるような悪質な書き込みが続いていたとして、2021年、警察に被害届を提出しました。
警察が捜査を進めた結果、「死ね」などと書き込みをした人を特定し、こうした書き込みが侮辱罪にあたるとして書類送検しました。
その後、示談が成立し不起訴になっています。
この際福投手は、NHKの取材に対しこうコメントしていました。
福敬登投手
「これをきっかけに投稿する際に行きすぎた表現になっていないか、ボーダーラインを意識しモラルが守られるようになってくれればと思っています」
サッカー界もひぼう中傷に声明“法的措置も”
こうしたひぼう中傷の投稿は野球に限らず、他のスポーツでも見られます。
5月にはサッカーJ2のザスパ群馬が、所属選手やスタッフに相次いでひぼう中傷のメッセージが送られたとして「所轄の警察署へ相談をし、特定した当該者等への法的処置をはじめとした適切な対応をとってまいります」と発表し、悪質な行為を見逃すことはできないとしています。
J1の浦和レッズやガンバ大阪も、ひぼう中傷に断固として対応すると発表し、ことしに入って、ひぼう中傷に反対する声明を出したスポーツチームや団体は20を超えています。
“ひぼう中傷”線引きは?
ソーシャルメディアに詳しい国際大学の山口真一准教授は、スポーツ選手は特にひぼう中傷の対象になりやすいと指摘します。
国際大学 山口真一准教授
「アスリートは勝ち負けがある世界で、敵のファンから攻撃を受けるということもあるし、自分のファンからも『自分だったらこうしたのに』と自分の価値観を押し付ける、いわゆる『俺理論』が起こりやすい。今までは居酒屋とかで消えていた言葉が、誰もがSNSで自由に発信できる時代になって、目に見える形で相手に届いてしまう。投稿者は、それが大ごとだと気付いていないケースがほとんどで、批判だけしてるつもりであって、ひぼう中傷だと思っていないことが非常に多い」
プロ野球 発信者の特定に向け対応強化
日本プロ野球選手会は去年9月、被害を受けた選手の窓口となる、弁護士による対策チームを発足させ、投稿の発信者が誰なのか、情報の開示を求める申し立てを速やかに行えるようにしました。
これまで、プロバイダー側への複数の開示請求が裁判所に認められ、投稿者が損害賠償を支払う示談が成立しています。
しかし、今シーズンに入ってからもひぼう中傷が相次いでいることから、5月にもひぼう中傷を行った複数の発信者情報の開示請求を新たに行い、対応を続けています。
日本プロ野球選手会 森忠仁事務局長
「昔はSNSがなかったので、球場でのヤジだけで済んでいましたが、ここ最近、ネット上のひぼう中傷が急に増えたという感覚はあります。ひぼう中傷する人もファンの1人であることには変わりないと思うのですが、それがちょっと行き過ぎてしまうところがあるのではないでしょうか。ひぼう中傷を受ける選手の影響は大きく、メンタルとプレーの両方に影響があると思うので、選手会でも窓口を設けて対応するようにしています」
AIで検知 ひぼう中傷を防げ!
AI技術でひぼう中傷を防ごうという取り組みも進められています。
東京・品川区に本社があるIT企業「アディッシュ」はAIを活用して、ひぼう中傷の可能性のある投稿を未然に防ぐシステムを、口コミサイトの運営会社などに提供しています。
ひぼう中傷と判断された言葉を投稿しようとするとシステムが検知し「ほかの人が不快な表現になっていませんか」と、確認を促す画面が表示されます。
さらに、ひぼう中傷を連続して投稿しているユーザーを「要注意ユーザー」として認識し「アカウント制限の可能性があります」と、より踏み込んだ警告を行います。
会社によると、こうしたシステムで3割以上のひぼう中傷の削減につながっているといいます。
「アディッシュ」江戸浩樹社長
「人間だと“一瞬の怒り”もあると思うので、数秒あれば、かなり投稿の内容を見直せます。ただ、投稿の量が膨大なので、システムの力も借りながら全体として健全性をどう作っていくのかを日々格闘しているのが実態です」
パリ五輪 AI監視システムで選手を守る
7月26日に開幕するパリオリンピックでは、AIを使った大規模なソーシャルメディア監視システムの導入が発表されています。
オリンピックでは初めての試みで、IOC=国際オリンピック委員会によりますと、このシステムは、オリンピックとパラリンピックに参加する関係者を対象にしていて、主要なソーシャルメディアのアカウントを35以上の言語でリアルタイムに監視するということです。
ひぼう中傷と識別された場合には、迅速に対応し、アスリートの目に触れないようにするとしています。
IOCは「オンラインのひぼう中傷に気を散らすべきではなく、選手たちがメダルを獲得しようとすることに集中できる」としています。
送る前に「読み返して」
ソーシャルメディアに詳しい山口准教授は、ひぼう中傷は内容によって類型があるとして、こうした内容を発信しないよう、事前に理解することが大切だとしています。
その類型です。
(中傷の類型) (例)
1. 脅迫・恐喝 「殺す」「死ね」
2. 侮辱的・攻撃的 「バカ」「消えろ」
3. 容姿・人格否定 「顔が気持ち悪い」
4. 親族・組織への悪口 「おまえの親はクズだ」
5. 差別的な内容 「男・女のくせに」
6. 不幸を望む・呪う 「車にひかれろ」
7. 排除 「あなたの話は聞かない」
8. 嘘の情報 「反社会的勢力とつながっている」
9. 性的表現 「裸を見せろ」
※山口准教授をはじめとする国際大学GLOCOMによるひぼう中傷の定義
そして、山口准教授は投稿する側の、ひぼう中傷に対する意識を高めていくことも欠かせないと言います。
国際大学 山口真一准教授
「私が初歩の初歩で言っているのは『読み返してください』ということです。アスリートに対してテレビを見ながら5秒でメッセージを送れるというのは異常で、十分考えて、誰かを傷つけるような内容になってないかしっかり考えてほしい。高度情報社会で、誰もが自由に発信できる今この時代だからこそ、アナログの当たり前の道徳心というのがもう1番大事なんですよ」
サタデーウオッチ9(6月1日放送予定)
(取材:ネットワーク報道部 鈴木彩里・直井良介/サタデーウオッチ9 大熊智司・ホルコムジャック和馬)
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