◇◇取材こぼれ話◇◇
《基礎情報》泉谷駿介(いずみや・しゅんすけ)選手
初めてのオリンピックとなった東京大会で、準決勝敗退に終わった泉谷選手。レース後のインタビューでは「現実を受け入れられない」と期待されながら実力を発揮できなかった自身のパフォーマンスに悔しさをにじませました。
パリオリンピックに照準をあわせた泉谷選手は2023年、飛躍を遂げます。
6月の日本選手権で自身が持っていた日本記録を0秒02更新する13秒04の日本新記録をマーク。これは東京オリンピックの金メダルに相当するタイムです。
7月には世界最高峰の選手が集まる「ダイヤモンドリーグ」に参戦し東京オリンピックの金、銀メダリストの間に割って入り2位。
さらに、その翌月の8月には世界選手権の決勝に進み、5位入賞を果たし、世界のトップハードラーの仲間入りを果たしました。
泉谷駿介 選手「国際大会で海外のトップ選手を見ると以前は圧倒されて“絶対勝てない”と思ってしまっていたが、今では勝てるかもしれないと思えるようになったのが大きい」
泉谷選手の身長は1メートル75センチ。この種目の海外勢に比べるとひときわ小柄です。
ハードルを「またぐ」ように走る足の長い海外選手と比較すると、泉谷選手のハードリングは「跳ぶように」という表現がふさわしく感じます。
その「跳ぶような」走りを支えているのが強じんな体のバネです。陸上の跳躍種目にも取り組んできた泉谷選手は走り幅跳びでも日本トップクラスの8メートルを超える記録を持っています。このバネを使ってハードルを跳び越えることで失速をできるかぎり抑え、空中姿勢を安定させることにつながっているといいます。
パリオリンピックではメダル獲得を目標とする泉谷選手。課題が見つかったのは、去年の世界選手権でした。
決勝のレース。泉谷選手はスタート直後に両足の筋肉がけいれんし、本来の走りができませんでした。予選から決勝まで3回のレースを2日間で走るための体づくりができていなかったのです。
「準決勝では体の反応が良かったので、そのままの調子で決勝でもう1段階ギアをあげられればよかった。体の状態も含めて、あと1歩、表彰台に届かなかったので悔しさが残った」
この反省を生かし、オリンピックシーズンを前にした冬の期間、肉体改造に取り組みました。ハードルに特化したフィジカルトレーニングを初めて取り入れたのです。
100キロ近い重りを担いでのスクワットや鉄製のバーにぶら下がりながら足を手の位置まで上げて腹筋を鍛えるメニューなどハードル専門のコーチから指導を受けながら、徹底的に強化しました。
その泉谷選手の刺激となっているのが同じ種目のライバルで大学の後輩の村竹ラシッド選手です。
村竹選手は、フィジカルを生かした走りで、去年、泉谷選手の持つ日本記録に並ぶタイムをマークしました。お互いにライバル関係について多くは語りませんが強く意識し合う存在です。
村竹ラシッド選手「泉谷さんに憧れて同じ大学に入ったので追いかけたい目標でもある。でも、レースは勝負なので勝つことだけを考えている」
泉谷駿介 選手「お互いに世界と戦うことを目標にしているので、そこはうまく切磋琢磨できている。相手が誰であろうと負けるのは好きじゃないので、勝つ」
この種目で日本選手がまだ進んだことのない決勝の舞台、そしてその先にあるメダル獲得。泉谷選手はあくまで自分らしく、その歴史を切り開こうとしています。
「パリオリンピックという舞台をより楽しく終えるためには、メダルを取ったほうが、笑って終われると思う。あまり意識しすぎないようにして、自分らしい走りをしたい」
泉谷選手の日課は毎朝に飲む1杯のコーヒーです。
去年までは験担ぎとして、大事な大会に臨む前は大好きなコーヒーを1週間ほど我慢して、大会の当日に飲むというのをルーティンにしていました。
しかし、チームの関係者から「急にたくさんコーヒーを摂取した場合、筋肉のけいれんを起こすことがある」という指摘を受け、両足がけいれんした去年の世界選手権の決勝が頭によぎったといいます。
そこでことしからは験担ぎをやめて毎日コーヒーを飲んでいるという泉谷選手は「好きなものなのでやめるつもりはないですが、オリンピックの前に知ることができて良かったです」と笑っていました。気負わず、自然体で競技を楽しむ姿も泉谷選手の魅力です。(2024年1月29日「ニュースウオッチ9」で放送)
▽生年月日:2000年1月26日▽出身:神奈川県横浜市▽主な実績:・2021年 東京五輪 準決勝進出・2023年 日本選手権 優勝(3連覇)・2023年 世界選手権 5位入賞・自己ベスト 13秒04(日本記録)
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