丸刈り。根性。かつての「球児」像を超えて、選手それぞれの主体性を育む学校は増えている。

 取材班は夏の大会を前に、東海3県の参加校の監督や部長を対象とするアンケートをし、約300校から回答を得た。

 過去の経験(学生時代など)をふまえ、「避けている指導方法」を尋ねた。

 「選手に考えさせる時間を大切にしている」

 「頭ごなしに叱らない」

 「やらされる練習はしない」

 こうした「生徒の自主性」を大切にしている回答が多かった。

 小牧南高校(愛知県小牧市)では2、3年生全員をリーダーにしている。「整頓リーダー」や「あいさつリーダー」など仕事を細分化し、それぞれに裁量がある。

 川越高校(三重県川越町)では、作戦を考えるゲームキャプテンやトレーニングメニューを選ぶリーダーなどを置く。

 美濃加茂高校(岐阜県美濃加茂市)など、頭髪の取り決めを「丸刈り」から「自由化」とした回答も目立った。

地方大会皆勤校の旭丘 50年前から非丸刈りの伝統

 旭丘高校(名古屋市)は、頭髪の自由化が古くから進んでいた学校だ。

 1917年、旧制愛知一中時代に第3回全国中等学校優勝野球大会(現・全国高校野球選手権大会)で全国制覇。昨夏まで連続で地方大会に出場を続ける皆勤校だ。

 卒業生の武田康敬さん(72)が部員だった50年余り前には丸刈りの強制はなかった。98年の朝日新聞では「長髪や茶髪」の選手も紹介している。

 「自由」と「裁量」が浸透している。練習メニューは現在、主将植野友博さん(3年)が考え、当日に副主将と話し合う。練習は選手の裁量で決め、学校外の敷地を使う場合は、植野さんが地権者に許可を取る。

 そして日々、部員らが自由闊達(かったつ)に意見を交わす。植野さんは「互いに指摘し合って言い合う。それで強くなる」と言う。

集合時間の1時間前に集合・・・合理性ない慣習を撤廃

 今春の選抜大会出場の宇治山田商業高校(三重県伊勢市)でも「自主性」を重んじている。

 「山商」として親しまれる野球部の創部は1921年。甲子園出場は春と夏で計5回を数える。

 村田治樹監督(53)が母校の津西高校(津市)から異動してきたのは2016年。伝統校に来て、気になったのは合理性のない「部内慣習」だった。

 練習試合がある土・日、1年生だけ監督が指示した時間の1時間前に集合していた。とはいえ何をやるわけでもない。

 過去には2年生が1年生に金品を要求する不祥事もあった。「一定の上下関係は必要だが、服従はやめよう」。1時間前集合はやめさせた。プレーでも下級生が遠慮なく指示できる土壌を作った。

 「自ら考え、動く野球」を掲げ、就任3年目から練習メニューを考えるトレーニング班、用具の補修を担う環境班、栄養班などと、部員に役割と責任を持たせてきた。

 その成果の一つが、08年春以来となる甲子園出場だった。「ひとつのプレーの1人の判断が、土壇場で勝敗を左右する。そのために、練習や生活でも自主性を大事にしたい」と主将伊藤大惺(たいせい)さん(3年)は話す。

 13日夕、三重県伊勢市のグラウンドで宇治山田商と昴学園高校(同県大台町)の練習試合があった。主役は両チームとも控えの3年生たちだ。

 「いつも励ましてくれる先輩たちの姿を目に焼き付けたい」。スタンドでは、選抜で4番を任された宇治山田商の小泉蒼葉さん(2年)が声を張り上げて応援をした。

 ベンチに引き上げてくる選手らを笑顔で出迎えたエース投手の中村帆高さん(3年)は語る。

 「1人で投げるわけではない。つなぐ大切さが再認識できた」

 昨夏の三重大会は準優勝に終わった。今年こそ、17年ぶりの夏の甲子園出場を狙う。=おわり(この連載は渡辺杏果、本井宏人、高原敦が担当しました)

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