岩手の農業を盛り上げたい。おいしい食材を届けたい――。

 盛岡農(岩手県滝沢市)の主将で捕手の水原丈さん(3年)と投手の伊藤慶哉さん(同)のバッテリーは、そんな熱い思いで農業と向き合う。

 日本学校農業クラブ全国大会が10月に岩手で開催される。「農業高校の甲子園」と呼ばれる。盛岡農にとっては、今夏が過ぎると、もう一つの「甲子園」が待っている。

 全国各地を勝ち抜いた農業高校生が一堂に集まり、日本一を目指す。全国約300校という農業高校から選ばれた代表が参加する。盛岡農もその一つ。

 バッテリーを組む水原さんと伊藤さんは、6人で構成されている作物研究班にも所属している。

 盛岡農は岩手県のブランド米「銀河のしずく」を栽培する。だが、これまで県公認の品質基準をクリアできていなかった。認定にはたんぱく質含有量が一定数値以下であることが条件だ。先輩たちも試行錯誤してきたが、認定基準の数値には至らなかった。

 「今年こそは達成する」。2人は班のメンバーとともに、春に種まきをして苗づくりをし、育苗してから田植えを行い、成長度合いを見ながら肥料の種類や量を変えて調査。稲の草丈や茎の数を定期的に比較した。

 「成長してくると茎の数も増えてくる。数値が変わると正確なデータが取れず、品質にも影響を与える。すごく緊張しながら計測しました」と2人は振り返る。

 その苦労が実ったのは昨年12月。やっと基準値を達成して認定米になった。現在は、品質を維持しながら収量を上げることを目標に生育しつつ、全国大会の発表を目指す。研究報告の資料作成や発表練習にも励む。

 水原さんは「作物は長い目で、時間をかけて接する必要がある」と話す。その経験は野球にも生きていると実感する。

 「時間をかけることは、野球も同じだと思う。試合で大敗もあるけど、自分たちの成長を考えて、長い目で見るようになりました。先を見据えて諦めなくなりました」

 佐々木拓也監督は「精神的な成長をすごく感じる。学校のプロジェクトの中心になるくらい、周りを見られるようになってくれた」と目を細める。

 日本学校農業クラブ全国大会の地元開催に向け、野球部の他の部員も懸命に頑張っている。制作物や展示の準備、広報活動――。「農業高校の甲子園」でめざすのは、今後につながる研究成果を伝えること。やることはいっぱいだ。

 水原さんは「動物や作物、自然とふれあって得た長い目で見る力は、社会に出てからも生きる。野球でもその力を生かして頑張りたい」。主将として、「最後の夏」だ。

 青春の陽光をいっぱいに浴びながら白球を追い、実りの秋を迎えたい。(藤井怜)

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