部員不足で連合チームとして出場を続けながら、2021年の全国高校野球選手権群馬大会で4年ぶりに単独出場を果たした富岡実は今年も単独出場を続ける。「地域の期待に応えたい」。今年度に還暦を迎える指導歴38年目のベテラン監督は、この夏も情熱的に野球に向き合う。

 「三振してもいいから思い切り振れ!」「結果を恐れるな。そう、そのスイングだ!」

 富岡実の井上徹監督(59)の大声が飛んだ。6月上旬、前橋市であった前橋南との練習試合。守備では、内野手が正面のゴロをトンネルしてしまった。すぐに井上監督の大声が飛ぶ。

 「下を向くな。上を向け。失敗してもいい。次、挑戦すればいいんだ」

 富岡実は、選手17人。中学時代は、柔道部やハンドボール部、陸上部などに所属し、野球経験がない選手もいる。中学のときは休みがちだったが、高校入学して野球部に入ってからは、休まずに通っている生徒もいるという。

 富岡実は17年までは単独で群馬大会に出場してきたが、18、19年の群馬大会は部員不足のため、連合チームでの参加。コロナ禍で選手権大会が中止となった20年の独自大会でも連合チームで参加した。

 井上監督は21年に就任。校内や周囲の中学校に情熱を伝えると、次第に選手が集まり始めた。

 21年の群馬大会は選手13人がそろい、4年ぶりに、念願の単独出場がかなった。1回戦を勝ち、2回戦で樹徳を相手に善戦しながら4―7で敗れた。22、23年は1回戦敗退だったが、単独チームで臨んだ。

 この1年、甲子園春夏連覇を狙う健大高崎や群馬大会連覇を狙う前橋商など強豪とも練習試合を重ねてきた。

 群馬大会ではそんな強豪もあれば、部員不足から2チームが連合で参加するなど形態は様々だ。

 「連合チームで出場するのも選択肢だと思うが、自分たちはまずは単独での出場にこだわりたい。地元や保護者の期待に応えることができるから」と井上監督。

 井上監督は高校時代の1982年、東農大二でベンチ入り選手として夏の甲子園に出場した。後にプロ野球ヤクルトスワローズで投手として活躍し、北海道日本ハムファイターズでヘッドコーチも務めた阿井英二郎さん(現・札幌国際大教授)を擁し、全国的にも強豪として注目された。チームを指揮したのは名将・斎藤章児元監督(19年に79歳で死去)。若き日の斎藤元監督の指導は時に厳しかったが、当時選手だった井上監督は持ち前の明るい性格で、メンバーと監督との潤滑油の役割も果たしてきた。斎藤元監督が大事にしてきた「心のキャッチボール」という言葉は、今の指導に生かしている。

 井上監督らが中心となり、東農大二出身の指導者が集まる勉強会も例年開催している。県内の他校のチームの指導者で井上監督を慕う人も多い。元県高野連理事長の富沢渉さん(69)は「野球に対する情熱、選手への愛情は素晴らしい」と話す。

 6月14日にあった組み合わせ抽選会。佐藤理星主将は、開会式(7月6日)での選手宣誓を引き当て、「監督への恩返しになるかな」と笑顔を見せた。佐藤主将は速球を武器とするエースで、打撃でも主軸。「監督は、失敗しても前を向けと言ってくれる。下を向けば怒られるけど、自然と前向きになれる。三振しても全力で振れば、ほめてくれる。監督と一緒に、夏を戦っていきたい」と話した。

 富岡実は8日、高崎城南球場での1回戦で、練習試合も行った前橋南と対戦する。井上監督は「野球ができる喜びをかみしめて、『富実野球ここにあり』ということを示したい」と意気込んでいる。(八木正則)

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