第106回全国高校野球選手権群馬大会(群馬県高校野球連盟、朝日新聞社主催)が6日、開幕した。上毛新聞敷島球場で開会式と1回戦1試合があり、藤岡北が勢多農林を破って12年ぶりに夏の勝利を挙げた。7日は3球場で1回戦8試合が予定されている。

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 開会式は午前8時過ぎから上毛新聞敷島球場で行われ、64校59チームの選手たちが前橋育英吹奏楽部の演奏に合わせて入場した。昨夏優勝の前橋商が先頭を行進し、小池絆主将が優勝旗を県高野連の上原清司会長に返還した。

 上原会長は「笑顔で自信と勇気を持って戦い抜いて欲しい。大好きな野球に青春をかけ、集大成として大会に臨むみなさんには笑顔がふさわしい」とあいさつ。少年野球に取り組む篠原澄旭君=前橋市立桃木小6年=は「チームメートを信じ、今までの努力を信じ、全力でプレーしてください」と応援メッセージを送った。

 式に先立って育成功労賞の表彰もあり、高崎の選手、監督として選抜大会に出場し、昨年11月に60歳で亡くなった境原尚樹さんに贈られた。代理で表彰状を受け取った長男の優介さんは「父も喜んでいると思う。本当に野球が大好きな人でした」と涙を浮かべながら感謝を述べた。(杉浦達朗)

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 「100年先も、200年先も野球のすばらしさを未来の子どもたちが継承してくれることを願い、野球の魅力、楽しさを笑顔で伝え、仲間を信じ、明るく元気よくキラキラした姿でプレーすることを誓います」。富岡実の佐藤理星主将が力強く宣誓すると、球場は万雷の拍手に包まれた。

 選手宣誓を務めることが決まった時から、「子どもたちに野球の楽しさを伝えたい」と考えていた。野球人口の減少は肌で感じており、富岡実も部員不足に悩まされている。それでも、井上徹監督のもとで真剣に、楽しく向き合える野球の魅力を改めて感じ、「ずっと続いて欲しい」気持ちを宣誓に込めた。

 宣誓の言葉はチームメートや井上監督と考え、自宅やグラウンドで練習を繰り返した。「まっすぐ前を見て、堂々とする」ことを心がけて大役を全うし、開会式の後は「よかったよ」と友人らに声をかけられたという。「一生の思い出。試合での全力のプレーも子どもたちに見て欲しい」(杉浦達朗)

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 国歌は渋川女子3年の櫛川春菜さん(17)、大会歌「栄冠は君に輝く」は東農大二3年の坂本一晃さん(17)が独唱した。

 オーディションで選ばれた2人。大役を務め終えて一塁側ベンチに引き上げると、そろってほっとした笑みを浮かべた。

 コーラス部に所属する櫛川さんは「女子校なので、実際の球児の姿を初めて見ました。体格が立派で背も高く、立ち姿もかっこいい。国歌を通して選手のみなさんにエールを送れたと思います」。吹奏楽部でトランペットを担当する坂本さんは「想像以上に緊張しました。でも、球場のグラウンドに立つのは初めての経験。普段見ることのない広々とした光景にわくわくしました」と笑顔で語った。(抜井規泰)

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 開幕試合前の始球式は、女子中学生の軟式野球チーム「群馬エンジェルス」の2人が務めた。

 投手は新井陽菜(ひな)さん(15)=沼田市立利根中野球部3年=、捕手は田中絢萌(あやめ)さん(15)=前橋市立宮城中野球部3年。新井さんの投球が田中さんのミットに収まると、客席からは大きな拍手が送られた。

 新井さんは「緊張したけど、練習通りしっかりいい投球ができました」。田中さんは「いつもと違って人がいっぱいで緊張したんですが、楽しくやることができました」と笑顔を見せた。(中沢絢乃)

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 今春の県大会1回戦で実力校の前橋工に惜敗した勢多農林。だが、中堅手の伊藤雄大(3年)は仲間たちとその悔しさを味わうことができなかった。一回の守備で、味方の内野手と交錯。右まぶたを切り、意識を失い、救急搬送された。「気づいたら病院でした」。入院生活は10日に及んだ。

 退院後しばらく、飛球を全力で追うことが怖かった。しかも、チームはわずか10日で見違えるほどレベルアップしていた。母の和恵さん(46)に、こんな弱音を吐いた。「諦めてはいないけれど、メンバーには選ばれないかもしれない」

 でも、誰よりも声を出し、盛り上げ、率先して雑用をこなした伊藤は、再び「背番号8」をつかんだ。開幕直前には、「主将」も託された。母は試合前、「よく頑張ったと思います」と笑顔で語っていた。

 1番中堅手で先発。開会式直前、伊藤は「先頭打者の僕が塁に出ないと」。そう意気込んでいた。勢多農林にとっては8年ぶりとなる夏の勝利を誓っていた。だが――。

 思いが空回りしてしまったのだろうか。相手の好守にも阻まれ、塁に出ることはできなかった。チームは終盤に4失点し、開幕試合で散った。

 試合後、震える声で語った。「小学3年で野球を始めてからずっと支えてくれた母に、活躍する姿を見せたかった。それが申し訳なくて……」

 伊藤の言葉を和恵さんに伝えると、母は試合前と同じ笑顔で同じ言葉を口にした。「よく頑張ったと思います」。ただ、その笑顔は、ぬぐってもぬぐっても流れ続ける涙でぬれていた。(抜井規泰)

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 藤岡北の1番田村剛基(3年)は初回に三塁打を放ち、スクイズで生還。逆転されて迎えた五回には二塁打で出塁し、同点のホームを踏んだ。

 中学時代は卓球部。少人数の学校で野球部がなかった。高校で野球を始め、はじめは細かいルールやサインが分からなかったが、チームメートらに支えられて上達した。

 昨年の春季県大会でフェンスに衝突して両手首を骨折し、本調子に戻ったのは今春。思いっきり野球がしたくてうずうずしていた。「チームのために、先頭バッターとして点を取りたかった。勝ててよかった」。チーム12年ぶりの初戦突破に貢献した。(中沢絢乃)

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