人口減少と少子化が進み、地方の高校野球部員が減り続ける中、持続可能な高校野球を目指すためには何が必要か。

 鳴門工業(現・鳴門渦潮)出身の元プロ野球選手で、野球解説者として歯にきぬ着せぬ発言で知られる里崎智也さん(48)に聞いた。

 ぼくは徳島県鳴門市の出身で、母校の大津西小学校には児童が280人くらいいました。それが今は120人くらいです。鳴門市第一中学校もおよそ1100人いたのが、今は480人ほど。日本は地方の過疎地域からどんどん衰退していると感じます。

 四国は本州と結ぶ橋が架かるなど、交通の利便性が上がりました。その結果、ますます大都市部に進学したり就職したりして帰ってこなくなりました。

 子どもの数が減るのだから、高校野球人口が減るのは当たり前です。

問題は政治であって野球界でない

 問題は政治であって野球界ではありません。文句を言うなら、あっちにと思っています。

 仮にこれから子どもの数が増えたとしても、スポーツの多様化が進み、選択肢が増えている。環境が違うのに昔の高校野球と比べることに意味はないと考えています。

 いま気になっているのは、中学校の部活です。入学に学力ノルマのない中学の部活は、貧富の差に関係なく、誰しもスポーツや文化に触れられる一番のチャンスと思っています。

 いろんな事情があるのは理解しますが、その部活をなくしていく方針が各地で進んでいます。下手したら、中学校の野球チームすら存続できない可能性があると心配しています。

 学力試験や推薦入試などのある高校では、野球をやりたい生徒が都市部の強豪校に集まるのは仕方ない。強豪に行くよりも、試合に出られる地元の学校を選んでは、という考え方をぼくも講演で話すことがありますが、多分その選択が取れる人はほぼいないからです。

 強豪に行くということは、何かしらの結果を中学校で残しているんです。野球に限ったことではなく、一流の学校に入れるのに、入っても最下位層かもしれないからワンランク落として試験を受けるという人は少ない。多くは、一流の中にいた方がステップアップできると思っているんです。

 何が正解かはわからないけど、言えることは、自分の選択を力ずくで成功に導いていくことが大事ということです。

 家庭の事情で、野球ができる環境が整った都会の高校に行けないという場合もあるでしょう。それを補うのは行政の支援です。

 地元の高校に進む場合は、試合に出られる9人以上の部員がいることが最低条件ですが、無理だったら連合チームを作るしかない。それが今できる限りの手段だと思います。

ビジョンなければハコモノと同じ

 問題は何を目的にするかです。

 たとえば、新たに女子の硬式野球部を高校に作ったとしても、近くに練習試合ができるチームがないと継続できません。練習試合をするのに100キロ、200キロも移動しなければならないなら、それだったら県をまたいで強豪校に行った方が幸せかも、という話になりかねないからです。

 ハコモノと一緒で、作ることに満足するのではなく、継続できるビジョンがなければ、結局、大都市に流れてしまいます。

 練習って何のためにやるんですかといったら、試合で成果を出すためです。試合に出るから自分に何が身について何が身についていないか、やり方が間違っているのかそうでないのかということが分かる。

 試合の結果が自分の評価となり、次へのステップのための履歴書になる。その環境を作れるかどうかが継続性のポイントと思います。

 ぼくは地元鳴門工に進み、大学は東京の帝京に行き、ロッテに入団しました。プロになるうえで地方の強みが何かあるのかと聞かれれば、本人次第だとしか言えません。地元に残る方がいいとも、都会に出た方がいいとも言えない。

 そもそもプロになれるのは、ほんの一握りの選手です。能力もいるけど、運も必要です。プロにどうなったらなれますかと聞かれても、分からないと答えるしかない。

 ぼくが鳴門工に進んだのは、恩師の高橋広監督が、高校のことだけじゃなくて、大学とか社会人とか、先のことも見据えて話してくれて、この監督のもとで野球がしたいと思ったからです。

 練習は厳しかったけど、他の高校を知らないから、どこまで厳しかったかは分からない。ただ、トレーナーの人が月1回くらい来てくれて、体力トレーニングができたのは大きかった。

 いまの高校野球部員に伝えたいのは、野球ができるのは2年半弱、28カ月しかないのだから、必死でやれということです。

 結果にとらわれずに楽しくやりたい部員は楽しくやればいい。でも甲子園とか、大学とか、その先、未来まで野球で何とかと思っている部員は、死ぬ気でやんないと一瞬で終わりますよと。

 練習も、量より質やとかいってたら、一生うまくなんないです。下手くそが休んでてうまくなることはない。だったらハードワークして、うまくなる可能性に賭けてもいいやん、チャレンジして、それが成功して、うまくなったらいいんちゃうかと。

 プロだって同じです。下手くそが寝てて、次の日起きたら大谷翔平になっているなんてことはありません。  (聞き手・吉田博行)

里崎智也さんプロフィール

 さとざき・ともや 1976年、徳島県鳴門市生まれ。鳴門工業高、帝京大を経てプロ野球ロッテで16年間プレー。2度の日本一を経験し、2006年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では正捕手として日本を世界一に導いた

 引退後はプロ野球解説などで活動。ユーチューブに「Satozaki Channel」を開設し、球界の時事ネタを精力的に発信している。登録者数は7月1日現在、約76万人。15年から鳴門市のスポーツアドバイザーを務め、自身の名前を冠した少年野球大会で子どもたちと交流している

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