第106回全国高校野球選手権奈良大会が7日開幕し、開会式で全身の筋肉が徐々に弱っていく難病の選手が車いすで入場行進した。観客から大きな拍手が送られた。日本高野連によると、「(車いすでの入場行進は)聞いたことがない」という。

 五條高校(奈良県五條市)の阪本勇斗選手(2年)。チームは開幕試合に臨むため、午前10時に始まった開会式では最後に入場行進した。背番号16の阪本選手はチームメートの小田怜弥選手(2年)に車いすを押され、やや緊張した面持ちでグラウンドを回った。

 阪本選手は開会式の後、「大勢の観客が拍手で迎えてくれて、応援されている感じがした。グラウンドからの景色はすがすがしかった」と喜んだ。

 生後1カ月ごろ、発熱で病院を受診すると、難病を患っていることがわかった。小学生の頃から足の筋力が少しずつ弱くなり、5年生で車いすを使うようになった。

 その頃から高校野球に夢中になった。サヨナラホームランなど、最後まで何が起こるかわからないところに魅力を感じた。

 中学校では野球部に入り、ノックのボールを渡す役を担ったり、ベンチからひときわ大きな声で選手を応援したりした。

 そして高校でも野球部へ。いまは腕の筋力が落ちてボールを握れなくなったが、タブレットを使って試合のスコアを記録し、チームへの貢献を欠かさない。

 開幕試合では、ボールが飛んでくると危ないのでベンチには入らず、スタンドでメガホンをたたきながら応援した。

 「けいさんー!」。遊撃手の上東慧主将は、阪本選手の中学校の合同チームの先輩だ。入場行進でも「暑かったら言ってや」と気にかけてくれた。

 試合は0―1で敗れた。阪本選手は「悔しいけれど、主将は声を出して引っ張ってくれて、たくましかった」と話した。

 上東主将は「応援を頑張ってくれている阪本に、奮い立たされることもあった。勝って恩返しが出来なかったのが悔しい」と振り返った。

 開会式からスタンドで見守った母の真奈美さん(51)は「今日は朝から口数が少なく、緊張していたと思う。入場行進はしっかり前を向いて堂々と、応援も暑い中頑張ってくれた。感動しました」と語った。(佐藤道隆)

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