(11日、第106回全国高校野球選手権兵庫大会2回戦 吉川―川西北陵)

 コロナ禍だった2020年の独自大会以来、吉川(よかわ)は4年ぶりに単独チームで出場する。

 今年4月上旬まで、部員は3年生3人、2年生1人だった。だが、1年生への部活動紹介で主将が語りかけたスピーチで状況は一変した。

 「最後の夏こそは単独チームで出場したい」

 入学以来、連合チームで公式戦に出てきた河村遙斗主将(3年)は考えた。「普通に『入ってください』と頼んでも、入部してくれないはず。インパクトがあるメッセージで訴えかけたい」。

 スピーチは約1分間だった。

 「初心者、経験者は関係なく、僕らが求める人材は、面白いやつ一択です。うちに来ると、メリットしかありません。野球部というだけで注目され、場合によってはクラスからも、先生からも、先輩たちからも愛されます。僕が面白いのは当然ですが、僕以外にも、面白い人たちがたくさんいます。一度見に来るだけでもいいので、野球部に来てください。絶対に後悔はさせません。ありがとうございました」

 スピーチを終えると拍手が起きた。「しっかりと伝えられたかな」と手応えを感じた。

 その後、男子8人、選手として女子1人、マネジャーとして女子1人の計10人が入部した。

 「まさかこんなにたくさん入ってくれるとは思わなかった。ほんまにうれしかった」。河村主将は驚いた。小川凌吾監督は「上辺の言葉ではなく、河村の率直な思いが1年生の心に響いたのではないか」とほほえんだ。

 野球は初心者だった安居遼人選手(1年)は、バドミントン部に入ろうと考えていた。だが、河村主将のスピーチを聞いて「初心者もOKで面白そうだな」と思えたという。いまでは、ヒットが打てたり、フライが捕れたりするようになった。「どんどん上達していくのが楽しい。先輩も同級生も面白い人ばかり。入部して良かった」と言った。

 女子部員の大垣優空さん(1年)は小学生のとき、ソフトボールをしていた。スピーチを聞いて「野球をやってみたいし、大会ではチームを支えたい」と入部を決めた。「もしもまじめなスピーチだったら、気軽に話しにくいと思って、入部しなかったかもしれません」と振り返る。

 河村主将は「仲間がたくさんできて、チームの雰囲気も良くなった。今はみんなで笑いながら、楽しく野球ができるだけで幸せです」。最後の夏は、勝っても負けても、悔いのない全力プレーをしたいと考えている。(森直由)

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