(11日、第106回全国高校野球選手権岩手大会1回戦、久慈東0―5一関一)

 序盤に3点をリードされ、四回までは無安打。久慈東の捕手・西川蒼空(そら)選手(3年)は、この劣勢を挽回してやろうと考えていた。

 「自分が先頭で出て、この悪い流れを変えてやる」。五回表、そう気合を入れて打席に立った。2球目の直球を鋭く振り抜くと、左越え二塁打に。チーム初安打が長打となった。

 「よくやったー!」。ベンチから声がかかると、二塁ベースで両手を挙げ、満面の笑みで応えた。持ち前の明るさで「力抜けよ!」と次の打者に声をかけた。中前打などで2死二、三塁に好機は広がったが、後続が倒れた。チームは六回にも1死満塁のチャンスをつくったが、あと1本が出ず、敗れた。

 秋や春の試合では打撃が伸び悩んだ。「自分の強みでもある打撃を強化したい。主将の中崎健聖投手(3年)を援護し、楽に投げさせてやりたい」。そう目標を持ち、強い打球を打てるよう下半身の強化に力を入れた。

 来春、久慈工と統合するため、久慈東としては最後の夏になる。スタンドには多くの関係者が集まった。試合後、西川選手は「校歌を歌いたかった」と涙を見せた。ただ、佐々木達監督は「あの一打でチームを目覚めさせてくれた。勝利は届けられなかったけれど、彼らが一生懸命グラウンドでプレーする姿を見せることはできた」とたたえる。

 西川選手は調理師になるという目標がある。「野球で培った、努力する姿勢は今後にも生きる。この力を生かしてがんばりたい」。涙を見せながら、笑顔ものぞかせた。(藤井怜)

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