(12日、第106回全国高校野球選手権佐賀大会2回戦 神埼清明4―11三養基)

 大雨による試合中断から一夜明け、神埼清明の北原巧盛(こうせい)投手(3年)は、2死満塁の真っさらなマウンドに上がった。前日、初回に制球が定まらず3点を奪われた。続くピンチで雨が強まり、継続試合となっていた。

 竹内文人監督から「切り替えていけ」と送り出された。北原投手は迷いなく腕を振ったが、ストライクが入らない。先頭の9番打者に3ボールになった。「最初のカーブが入ればよかったが、カウントを取りにいかざるを得なくなった」と竹内監督。3連続短長打を浴び、あっという間に5失点。スコアボードに重すぎる「8」が入った。

 昨夏、遊撃手で準優勝に貢献した北原投手は、チーム事情でこの春から投手になった。縦じまのユニホームの背番号「1」には特別な思いがある。「兄ちゃんが甲子園に行けなかったから、自分が絶対、行きたい思いがあった」。兄の大雅さん(19)は2年前のエース。佐賀大会決勝で有田工に惜敗。春夏通じ初の甲子園に一歩届かなかった。

 兄とキャッチボールしながら、スライダーの投げ方を教わった。初戦の前には「両親にいいところを見せてやれ」と声をかけられた。

 一方で投手の厳しさも感じていた。「調子が悪い時に、いい方向に切り替えるのが難しかった」。経験が浅く、継続試合での登板も初めて。持ち味を出せなかった。

 三回途中から遊撃手に戻ると、思い切り声を出した。「自分のせいでこんな状況を作った。投手を鼓舞するような声がけをした」。五回には適時二塁打を放った。「自分が打たれた時も『大丈夫』と励ましてくれた。最後まで楽しくできた」。3年間で初めて1勝もできなかった夏は、忘れられない2日間で終わった。(森田博志)

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