「おにぎりできましたー!」

 練習が終わると、高円芸術のマネジャー・大和(おおわ)凛(2年)はお盆に山盛りに載せたおにぎりを、部員6人に配っていく。

 部員の手が次々と伸びてきて、あっという間になくなる。お盆が軽くなる感覚はいつもうれしい。

 日替わりの5種類のふりかけで味付けをした三角のおにぎり。「おにぎりは練習後の一番の楽しみ。トレーニングをした後にみんなで食べて、僕たちの体づくりになってます」。部員の湊俊輔(2年)はそう言ってほお張った。

 おにぎりを作るようになったのは昨年11月からだ。

監督の手には炊飯器とお米

 「大和、ご飯炊いてくれるか?」。練習前、監督の山本俊介からそう声をかけられた。実は前々から、選手たちの体づくりのために食べる習慣を身につけさせたいと相談は受けていた。その手には炊飯器とお米。「監督、本気や」。覚悟を決め、引き受けた。

 数日後、グラウンド横で米を炊き、SNSで調べながら、買っておいた容器を使って十数個のおにぎりを完成させた。

 「食べてくれるかな……」。そんな不安をよそに部員たちは大喜び。みんなパクパク食べてくれた。主将の沖優希(3年)は、「バスケ部が練習後におにぎりを食べていたのを聞いてあこがれていた。自分たちのために作ってくれたのがうれしくて、すぐに2個目をおかわりした」。

 その日の帰り道、大和は送り迎えをしてくれる母に「作ったおにぎりが全部無くなってびっくりした!」と喜びを伝えた。忘れられない一日となった。

 以来、筋力トレーニングがある火曜日と木曜日におにぎりを作っている。

家のお手伝いでご飯を炊くことはあるが、部員に食べてもらうご飯だと思うと、慣れていても緊張する。

 目盛りに目をこらしながら、ゆっくり水を入れる。「ご飯がやわらかくなりすぎないか、いつも注意している」

 部員たちがおにぎりを食べる時間はいろんな話が飛び交う。「あのボール、なんで捕れなかったんやろ」と練習を振り返ったり、テストの話をしたり。「学年を超えて話ができる大事な時間になっている。先生がいない僕らだけの時間なんで」と沖。

 監督も「食が細いこの子たちだったが、おにぎりを食べ始めてから、みんな体重が増えた。少しは効果があったんじゃないかな」と満足げだ。

 ご飯を炊くようになって半年が過ぎた。今はふりかけだけだが、次は具材を入れたおにぎりを作ろうとひそかに考えている。=敬称略(佐藤道隆)

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