(24日、第106回全国高校野球選手権佐賀大会決勝 鳥栖工1―2有田工)
1点リードされた五回2死満塁、有田工の石永煌希投手(3年)は2ボール1ストライクから、捕手のサインに首を振り、自信があるスライダーで勝負した。しかし、外れて3ボールになった。
ベンチの梅崎信司監督を見た。石永投手は「自信を持てというジェスチャーをしてくれていた」。直球でストライクを取りフルカウントに。今度は遊撃の前田壮梧主将(3年)から声がかかった。「後ろを信じて、思い切り投げろ」。言葉通り134キロの直球。二ゴロでピンチを切り抜け、その裏の逆転を呼んだ。
有田工は昨夏、3回戦でコールド負けした。2番手で投げた石永投手は押し出し四球などで3失点。梅崎監督が振り返る。「中途半端に使ったら伸びないと思った。ただ、ただ、走れ、走れと」。石永投手は62年ぶりに優勝した昨秋とこの春の県大会は登板がない。監督は「ついつい抜いてしまう。我慢強く、辛抱強くなることを覚えてほしかった」と続けた。全体練習後、石永投手はグラウンドの内野部分を20周走ることを自ら課してきた。たまにサボると、梅崎監督は、既に制服姿だった石永投手を再び着替えさせ走らせたという。
大会前、梅崎監督は地元の陶山神社のお守りを石永投手に渡した。「俺の魂を込め預けるから」。弱気になるな、と暗示をかけるつもりだった。
この日、四回に与えた先取点は押し出しの四球だった。梅崎監督は「一瞬(弱気が)出かかったが、そこから粘れたのは1年間の取り組み」とたたえ、試合後、その成長ぶりに思わず涙した。石永投手は「しっかり切り替えて投げられたのが一番よかった」と胸を張った。監督の暗示はもう、いらない。(森田博志)
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