(24日、第106回全国高校野球選手権福島大会 須賀川創英館3―5相馬)

 八回裏、2死一、二塁。須賀川創英館の左エース善方(ぜんぽう)空翔(そらと)投手(3年)は、初回と三回に長打を許した相馬の2番打者・宝佑真選手(3年)と向き合った。

 カウント2―2で追い込み、この夏、594球目に投じた渾身(こんしん)の一球。外角低めのスライダーに、相手のバットは空を切った。チームは九回表に反撃及ばず敗退。「野球人生で最高の一球」が、高校最後の一球になった。

 新チーム発足後、秋、春と公式戦は未勝利。それが夏は、秋と春の県大会準優勝の第3シードの強豪・光南を倒して初の8強入り。善方投手は緩急つけた投球で打者を翻弄(ほんろう)し、4試合を1人で投げきった。

 2年前に須賀川と長沼が統合して開校した須賀川創英館。父の宏明さん(43)は最速135キロの直球で押す長沼の元エース。左利きから矯正させられた宏明さんは「息子には野球をさせたくて、左利きのままにした」。幼い頃からキャッチボールの相手になった。

 善方投手は172センチ、63キロと投手としては小柄だ。体格をカバーするため冬場にトレーニングを重ね、夏前には球速は8キロアップの最速133キロに。変化球も2種類から4種類に増やし、走り込みでスタミナをつけた。

 「父を目標にしていた。球速は及ばなかったけど、制球力や変化球では超えることができたかな」と善方投手。長沼で最後の夏は3回戦敗退だった宏明さんは「見たことない景色を見せてくれた。1人でよく投げきった」と、スタンドで目を潤ませた。(酒本友紀子)

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