言い古された言葉だが、「野球は最後まで分からない」、ということだろう。25日にあった第106回全国高校野球選手権鳥取大会の決勝は、鳥取城北が土壇場の九回裏に4点を挙げて米子松蔭に逆転サヨナラ勝ちした。スタンドで見ていて、目を疑うほどの劇的な幕切れだった。担当記者として、大会を回想する。

 取材で印象に残っているのは、米子工のベテラン監督、井畑浩次さん(65)の言葉だ。「野球は人が得点になる球技。人間力のスポーツです」。言われてみれば、確かにバレーボールもテニスもサッカーも、点を取るのは「ボール」だ。野球は人間が本塁に触れることで得点になる。

 もう一つ、印象に残ったエピソードがある。3連覇を逃した鳥取商の渡辺達郎監督(52)に試合後取材をしていたら、3、4歳ぐらいの女の子が監督に駆け寄り「また頑張って下さい」と声をかけた。私が「野球っていいな」と思うのはこういう瞬間だ。野球ファンの裾野は広いと思った。

 多くの選手が「感謝」の言葉を口にした。つらい練習を、色々な人たちが支えてきたのだろう。試合ごとに、敗れて泣きながらあいさつをする選手たちに、やはり泣きながら拍手を送る保護者らの光景をみて、なるほどスポーツは人間が支えるのだと思った。

 大会は、第1シードの鳥取城北と第2シードの米子松蔭が順当に勝ち上がった。昨秋の県大会、今春の県大会に続き、同じ顔合わせの決勝となった。両チームのバントのうまさ、ワンチャンスを逃さない攻撃などは相当な練習の蓄積があるのだろうと思わされた。この私立2強時代になるのか、公立の奮起を期待する。

 少子化とスポーツ人気の多様化で、野球人口は減っている。小学校単位でチームが作れない地域が増えているという。あの女の子は将来野球にかかわってくれるだろうか。「人間力のスポーツ」として、高校野球が未来へ続くよう応援していきたい。

 最後に、私の好きな言葉を紹介させて欲しい。米国のウォーレンという政治家の新聞に関する言葉だ。「私はいつも最初にスポーツ欄を開く。そこには人間が達成したことが記録されている。第1面は人間のしでかした失敗ばかりだ」(奥平真也)

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