(28日、第106回全国高校野球選手権福島大会 聖光学院4―1学法石川)

 試合前の数分間。背番号のない学法石川の伊藤壱太朗さん(3年)は一球一球に気持ちを込め、ノックを打った。引き揚げる際、バッターボックスに片ひざをつき、指で「心」と書いた。

 「今日で全てが決まる。悔いなく打席に立ってくれ」。試合には出ない自分の思いをそっと残した。記録員としてベンチ入りし、見守った。

 2年の春、選手を諦めて学生コーチに。同学年を一緒にまとめてきた小宅善叶主将(3年)から「壱太朗がやってくれればチームは強くなる」と頼まれ、引き受けた。監督と練習メニューを決め、仕切った。時に厳しい言葉を投げかける「嫌われ役」も買って出た。

 聖光学院には昨夏の決勝で延長戦の末、敗退。新チーム発足後の昨秋の県大会でも敗れ、チームの士気は下がった。話し合いを重ね、「プレーどうこうじゃない。お互いを信じ合うことが大事なんだ」と何度も説いた。レギュラーとそれ以外の部員の間に溝が生まれた時は、「控え選手の立場も考えろ」と涙ながらに訴えた。

 チームは秋の東北大会で快進撃を見せ、春の選抜大会に出場。初戦で敗れたが、3年生は「もう一度、壱太朗に甲子園でノックを打たせる」と心を一つに夏に臨んだ。

 因縁の対決となったこの日は、いきなり初回に4点を奪われる苦しい展開。だが「以前ならもっと点差を広げられてもおかしくなかった」。伊藤さんは、最後まで食らいつく仲間の姿に胸を熱くした。最終回までベンチから「一本出ろ!」と必死に叫び、ともに闘った。スタンドへのあいさつ後、ひとりベンチ前に残り、うずくまって涙を流した。

 「悔しい。でも、全員で立ち向かえた」。仲間にはこう伝えるつもりだ。天職の学生コーチを任せてくれて、ここまで連れてきてくれてありがとう――。(酒本友紀子)

 学法石川・佐々木順一朗監督 好投手の高野(結羽)君相手では、初回の4失点が大きかった。選手たちは、これからの人生の方が長い。負けて全てが終わりではないので、応援してくれた方への感謝を胸に次に向かっていってほしい。

 学法石川・小宅(おやけ)善叶(よしと)主将 (先発の佐藤)翼はよく投げてくれたのに、点数を取ってあげられず、申し訳ない。2年生にはこの悔しさを忘れず、1日1日を大切に練習に励んでほしい。(3年生の仲間には)ありがとうと伝えたい。

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