“プレッシャーしかなかった”
パリオリンピックを象徴する競技会場のひとつ、コンコルド広場は、大観衆に包まれていました。その中心に立つ堀米選手は君が代が流れる中、2つ目の金メダルをかけてゆっくり目を閉じました。
表彰式を終えた堀米選手は3年前の東京大会で見せた気持ちが高ぶった様子とはまた違う、穏やかな表情を浮かべていました。
「本当にプレッシャーしかなかった。東京オリンピックが終わって、先が見えなくなった時期もあった。でもスケートボードの技だけではなくて人間的にも成長できたし、最後にこうやって逆転で優勝できて本当にうれしい」と言葉を選ぶように語りました。
ライバルたちが高得点をたたき出す中…
「自分のすべてを出し切る」と臨んだ2度目のオリンピック決勝の舞台。
45秒滑って技を繰り出す前半の「ラン」で、堀米選手は1回目、多彩な技を見せて89.90をマークします。
しかし、アメリカのスター選手、ナイジャ・ヒューストン選手や、東京大会の銅メダリスト、ジャガー・イートン選手、そして日本の白井空良選手といったライバルたちが、それを上回る90点台の高得点をたたき出し、堀米選手は「ラン」を終えた時点で、表彰台圏外の4位にとどまりました。
“死ぬほど練習してきた”大技は
それでも後半、堀米選手が得意とする1回の技で競う「ベストトリック」では、1回目から半回転して縁石に飛び乗り後ろの車軸部分で滑り降りる「ノーリーバックサイド180スイッチ5-0グラインド」という、難しい技を鮮やかに決めて、94.16の高得点をマークして、3位に浮上しました。
2回目で選択したトリックは「ノーリーバックサイド270ブラントスライド」。
ボードの前側をたたいて飛び上がり、空中で体ごと270度回転して、後輪部分をレールにかけて滑り降りる大技で、堀米選手が逆転でパリオリンピックへの切符をつかんだ6月の大会で初めて成功させた技でした。
日本代表の早川大輔コーチがパリ大会へ向けて「堀米選手が死ぬほど練習してきた」と明かす大技ですが、レールにボードがうまくはまらず、2回目、3回目と失敗が続きます。
それでも「自分の滑りに集中」
その間に、ライバルたちは高難度の技を次々と成功させさらに得点を伸ばしていきました。
スケートボードのストリートではほかの選手の滑りの合間には、わずかな時間、練習できるタイミングがありますが、そこでも堀米選手はこの技を1回も成功できず、体をコンクリートに打ちつけるばかりでした。
そして4回目も着地できずに転倒し、この時点で順位は7位まで下がり追い詰められました。ただ失敗を繰り返す中でも「イヤホンをつけていたが、音楽もかけずにできる限り自分の滑りに集中していた」とその集中力は研ぎ澄まされていきました。
メダルをかけた最後の滑走
そして、ベストトリック最後の5回目。ここで失敗すれば連覇はおろか、メダルにも手が届きません。
直前にはカナダの選手がトリックで会場を大きく沸かせていましたが堀米選手は脇目もふらず自分の技の練習を繰り返していました。
そして最後の滑走。大声援を背にゆっくりと滑り出すと高いジャンプから鋭く回転し、レールに後輪部分がしっかりはまって、着地も完璧に決めました。
得点は97.08。その時点でトップだったイートン選手を、わずか0.1上回り、土壇場でトップに立ちました。
感情を爆発させた堀米選手は駆け寄ってきた早川コーチと抱き合い、2大会連続の金メダルを手にしました。
“折れても立ち上がって” 自分との戦い
こだわり続けた大技を最後の最後で成功させたことについて堀米選手は「自分との戦いだった。今までそのトリックを練習でやってきたことを思い出して、わずかな時間でも練習で合わせて成功させることだけをイメージしていた」と振り返りました。
どんなに実績を残しても“自分はまだこれからだ”という言葉を大事にし続けてきた堀米選手に、改めてその姿勢について質問するとこれまでの歩みを振り返るように1つ息を吐いてこう答えました。
「本当にチャレンジしかない。スケートボードはけがも多いし心を折られることも多い。でも折れても立ち上がって、折れても立ち上がっての繰り返しだと思っている。本当に自分との戦いだ」。
チャレンジし続ける反骨心
東京オリンピックでスケートボードの象徴とも呼べる存在となってから3年。パリの舞台で見せた鮮やかな逆転劇は、絶対的な王者としての貫禄すら感じさせました。
その強さの源にあるのは体を痛めても、厳しい壁が立ちはだかっても、チャレンジし続けていくという反骨心。オリンピック連覇という偉業を成し遂げても堀米選手は“まだまだこれから”とその歩みを止めることはありません。
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