(13~29日、第106回全国高校野球選手権岡山大会)

 低反発バットが導入されて初めての夏の大会。本塁打は計5本とここ20年で最少になり、岡山県高野連のまとめによると、436得点は下から2番目、平均打率2割5分2厘も下から3番目。一方で最多の188盗塁が記録されるなど、「足」を使った攻めが目立った。

 岡山大会で優勝した岡山学芸館のキープレーになったのが、3回戦の創志学園戦、0―0の三回1死満塁で敢行したヒットエンドランだ。

 「アグレッシブ・ベースボール」を掲げる創志の門馬敬治監督以上に動いていく、という佐藤貴博監督の意志に、選手がこたえた。5年ぶりの甲子園への道を開いたプレーといえる。

 足で最もインパクトを残したのが関西の1番打者・渡辺諒斗(まさと)(3年)。決勝までの5試合で6盗塁を決め、失敗ゼロ。準々決勝の岡山東商戦では二、三塁で投手が二塁牽制(けんせい)した隙に本塁を陥れた(記録は重盗)。「スタートが難しいんで盗塁は得意じゃない。足でカバーしてます」と謙遜(?)する。関西は盗塁だけでなく、走者二塁や三塁でのヒットエンドランやスクイズも多用した。機動力で古豪復活の機運を高めた。

 走塁の要素は脚力だけではない。状況判断で高いセンスを見せたのが倉敷商の佐々岡優翔(2年)。3回戦の玉野商工戦、1点を追う四回、内野ゴロに倒れたが、一塁悪送球で二塁に到達した際、本塁のカバーがいないことに気づき、そのまま三塁も回ってホームへ。同点に追いつき、八回には適時打を放ち、決勝点を入れた。

 「足にスランプはない」とは言うが、実際には緊迫した場面ではスタートを切りづらくなるし、凡打すれば全力疾走をゆるめたくなるのが人の性(さが)。でも気を抜かず、一生懸命走れば、何かが起きた時に報われる。

 試合後、「ナイスラン!」と声をかけたときの選手の顔の輝きは「ナイスピッチ」や「ナイバッチ」より明るい。そんな気がしている。(大野宏)

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。