尊敬の父、厳しかった指導

父は言わずと知れた柔道家、オリンピック2連覇を果たした斉藤仁さん。9年前、54歳の若さで亡くなりました。

父・仁さんはオリンピック2連覇(1984年)

斉藤選手にとって最も尊敬する選手で「映像を見て憧れたし、こういう舞台に立って優勝したい気持ちにも本当に何回もなったし、同じ舞台で立てることも、本当に誇っていいと思っている」と話します。

2013年に仁さんのがんが発覚してからは斉藤選手の母である三恵子さんは映像で親子の稽古の様子を記録するようになりました。

強化選手の指導にも携わっていた仁さんですが、撮影された映像には柔道用の畳が敷かれた自宅の和室や、時には旅行先でも斉藤選手に稽古をつけるようすが記録されています。

その指導はひときわ厳しかったようで斉藤選手が「小学校の時も優勝しても、内容が悪かったらすごく怒られる。『帰って研究だ』とかそういう人だった」と涙と汗にまみれた日々を振り返って苦笑いを見せることもありました。

三恵子さんも「何十回、何百回と反復練習させられて、ちょっとでも足の位置がずれると『そうじゃねえだろ』みたいな感じでした。大きい体だけで勝つような柔道はやっぱりかなり子どもたちにも注意をしてるというか、叱っていました」と懐かしむように話しました。

「稽古、行け」

病状が日に日に悪化していく仁さんの最後のことばは2015年1月だったといいます。

中学1年生だった斉藤選手が三恵子さんと病院を訪れた際「ほとんど口もきけない状態だったんですけど『稽古を行かせる?病院で一緒にいた方がいい?』と聞いたら、絞り出すような感じで『稽古、行け』とひと言だけ言ったんですよ」と三恵子さんは明かしてくれました。

そして「立は『えー』と言っていましたけど、そのまま稽古に連れて行って。その日の夜、亡くなってしまった。恐らく休ませるなんていう事は、意識がなくなりそうな時でも、その選択肢はなかったかな」と死が迫る中でも斉藤選手が強くなることを願っていたことを思わせるやりとりをつぶさに教えてくれました。

父を追って

そして、父の願いに応えるように稽古を重ね続けた斉藤選手は父と同じく内股と体落としを得意技として大学3年生になると体重無差別の日本一を決める全日本選手権で優勝。

ことし6月 代表内定後の稽古

史上初の親子での制覇を成し遂げました。

稽古を続ける原動力となっていたのが父と誓った「オリンピック出場」と「金メダル獲得」という2つの約束です。

「金メダル取ると約束したんで。絶対優勝するぞと、おれがやらなきゃ話にならない」と常々口にしてきました。

初戦の難敵を撃破

1つめの約束は去年8月に果たし、パリオリンピックの代表に早々に内定しました。
待ちに待った舞台の初戦の相手はチェコのルカシュ・クルパレク選手。

東京大会の金メダリストといきなり顔を合わせることになりましたが深く礼をして畳にあがった斉藤選手は落ち着いているように見えました。

立ち上がりから組み手を制して、自分のペースに持ち込むと試合開始からおよそ1分半、鋭く得意の「内股」を決めてみせました。

観客席で見守った母の三恵子さん、兄の一郎さん。

観客席の母・三恵子さんと兄・一郎さん

そして、三恵子さんの手元には父・仁さんの写真がともにあり、家族で斉藤選手の勝ち上がりを喜んでいるようでした。

敗れてもなお気丈に

しかし、準決勝で韓国の選手に敗れ、続く3位決定戦でも敗れたあとに取材エリアに姿を見せると「本当に申し訳ない気持ちしかない。やってきたことは合っていたという気持ちが強かったので、もう1回しっかり見直してやっていくしかない」と目を腫らしながら気丈に話しました。

そしてこの先、目指したい姿を聞くと「ロサンゼルスでやり返さないと、自分のお父さんにも、お母さん、兄にも本当に顔向けできない」と涙でことばに詰まらせながらも絞り出すようにまっすぐ答えました。

「申し訳ない」ということばを話した斉藤選手に母の三恵子さんは「すごく優しい子なので、気持ちはうれしいが、申し訳ないと思わなくていいし、支えるのが家族。負い目を感じる必要はまったくない」と心の内を思いやりました。

そして「届かないてっぺんではないと思っているので、必ず登頂してくれると思っている」とこれからの活躍に期待を寄せました。

4年後の雪辱へ

今大会、果たせなかった父とのもう1つの約束、「金メダル」は4年後に成し遂げる。

日本期待の22歳は支えてくれた人たちの思いを再び背負って歩き始めようとしています。

【NHKニュース】パリオリンピック2024

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