“組み手と言えば自分”
レスリング女子53キロ級の藤波朱理選手。
持ち味として知られるのは長い手足を生かした素早いタックルです。
しかし、強さの秘密はタックルに入る前の技術、「組み手」にあります。
藤波選手も「組み手と言えば自分です。一番得意としているところで手のひらで相手の動きがわかるくらい組み手に重きを置いてやってきた」と話すなど常にこだわってきました。
「組み手」とは
「組み手」は相手を押したり、腕をつかんだりして、ポイントを奪うためのチャンスを作るだけでなく、相手の攻撃を防ぐためにも使われる技術です。
オリンピック4連覇の伊調馨さんが名手として知られますが「言語化するのも具体的に教えるのも難しい」と言うほどで、基礎でありながら奥深い技術です。
父のもとで徹底的に技術磨く
その組み手は4歳でレスリングを始めてから父の俊一さんの指導を受け、徹底的に磨かれてきました。
俊一さんから言われたのは「触り続けること」。
練習や試合でも相手と距離を取るのではなく、なるべく相手に触れながら有効な組み手を探ってきました。
練習していない時にも海外の選手の動画を見ながら研究を怠りませんでしたが「レスリングが好きだから」とそうした時間も苦にならなかったといいます。
レジェンドからの指導でさらなる飛躍
日本体育大学に進学後に伊調さんと出会ったことも、さらなる飛躍につながりました。
スパーリングで相手をしてもらいながら世界でトップに立った先輩の技術を体で学んでいきました。
そのレベルは伊調さんが「朱理の間合いに入ってしまったら絶対にやられてしまう」と舌を巻くほどにまで達していて、その後、数々のタイトルを手にすると、去年6月の全日本選抜選手権ではオリンピック3連覇を果たした吉田沙保里さんの119連勝を超えました。
けがでどん底に
去年の世界選手権を制し、パリオリンピックへの切符をつかむとことし1月には連勝記録を「133」にまで伸ばし、順風満帆かと思われました。
しかし、ことし3月、練習中に左ひじを脱臼。
じん帯を損傷して手術を受けることになり、「ひじの痛みもそうだが、心の痛みも過去最大だった」とこれまで感じたことのないほどのどん底に沈んだと言います。
その苦境を救ってくれたのも家族でした。
大学進学後は俊一さんと2人暮らしをしていましたが、母の千夏さんが上京してサポート。
リハビリに付き添ってもらったり一緒にパリ大会の決勝の日までをカウントダウンするカレンダーを作ったりして不安を和らげてもらったといいます。
家族とともに 夢の舞台へ
5月に本格的に練習を再開し、その後、実戦を積めないまま臨んだオリンピック。
それでも「けがをはじめ、ここに来るまでいろんなことがあったけれどそれを乗り越えながらやってきた姿を見せたい。16年間やってきたことすべてを出して絶対に金メダルを獲得する」と吹っ切れた状態でパリのマットに上がりました。
順当に勝ち上がり、決勝の観客席には母や祖母を始め藤波選手を応援する多くの人の姿がありました。
支えてくれた人たちの姿を見て「目に焼き付ける。パワーに変える」とうなずいた藤波選手はセコンドを務める俊一さんと一緒に入場しました。
そしてつかんだ金
迎えた決勝の相手、エクアドルの選手は去年の世界選手権で唯一、藤波選手からポイントを奪った相手です。
開始直後から激しい組み手争いとなりますが、40秒すぎには左から相手のバランスを崩して2ポイントを奪うと、その後も組み手争いで優位に立ち、相手の動きを冷静に読んでタックルを防いだり、鋭いタックルに入ったりして次々とポイントを重ねました。
後半も組み手から相手を崩してポイントを重ね、気付けば10対0と圧勝。
憧れの金メダルを圧倒的な強さでつかみました。
勝利が告げられると俊一さんに飛びついて抱きつき「ぶつかり合うことやけんかすることも多かったが、父がいなければここにはいないので、一番感謝したい存在」と喜びを爆発させました。
そして、観客席にいた母と祖母とも抱擁を交わし、「間違いなく今までで一番幸せ」とも話しました。
これからも強さ見せ続ける
組み手の深奥を探り続けて憧れの金メダルにたどりついた藤波選手。
「これからの藤波朱理にも注目してほしい」と、パリオリンピックが終わってもその類いまれな強さを見せ続けることを最高の笑顔で誓いました。
レスリング 藤波朱理が金メダル 女子53キロ級 パリ五輪
【NHKニュース】パリオリンピック2024
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