(12日、第106回全国高校野球選手権大会2回戦 広陵2-1熊本工)
投げ終えた広陵のエース高尾響の顔が、その時だけ、獣のようなすごみを帯びた。
九回の守り。リードは1点のみ。味方の失策と安打、犠打で1死二、三塁に。サヨナラ負けの危機に「今日、一番気合が入った」。
工夫したのは、初球の入り方だ。「厳しいところへストライクを投げる」。2人前の打者、熊本工の浜口に初球を狙われ、中前へ運ばれた。カウントを不利にはせず、振ってきても安打は許さない。そんな構想だ。
初球、低く落ちる球で空振り。3球で追い込んだ。5球目、この日最速の146キロが内角低めぎりぎりに決まった。獣の形相はこの時だった。
次の打者に対しては、球の厳しさに拍車がかかった。三球三振。遊び球も使わずにねじ伏せた。
甲子園での記憶は悔しさに満ちている。昨夏は優勝した慶応に延長戦で力負けした。今春の選抜大会でも延長十回、サヨナラ負け。学んだのは「1点の厳しさ」だ。
「精神面が強くなった」。一昨年からバッテリーを組む捕手の只石貫太は言う。この日、堅守のチームが3失策を記録したが、表情を変えず、いずれのイニングも得点を許さなかった。七回に浜本遥大が逆転の2点適時打を放つまで援護はなかったが、丁寧に投げ続けた。焦って失う1点の重みを知っているから。
最後の打者を切ると、高尾はくるりとバックスクリーンの方を向いた。派手なしぐさは見せない。心から喜ぶ瞬間は、おそらくずっと先だ。(山田佳毅)
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