(16日、第106回全国高校野球選手権大会3回戦 東海大相模8―1広陵)

 一塁側ブルペンから、乾いたミットの音が何度も、甲子園に響く。早くマウンドに上がらせてくれと言わんばかりに――。

 広陵のエース高尾響の出番は1点ビハインドの五回1死三塁でやってきた。

 いつもと変わらないポーカーフェース。だがその初球、内角高めの直球をはじきかえされ、詰まった打球は右前へ。この適時打を含めて3連打された。六回も3本の二塁打などで3点を失った。

 高尾は1年春から伝統校の背番号「1」を任されてきた。かつて西村健太朗(元巨人、2003年選抜優勝)や野村祐輔(広島、07年全国選手権準優勝)ら、そうそうたる面々が背負ってきたエースナンバー。もちろん重圧はあった。

 それでも「自分で負けたらしょうがないとみんなが思ってくれる。大事な背番号で、チームを勝たせるためにつける番号」と意気に感じてきた。4季連続の甲子園出場に導き、その期待に応えてきた。

 今春の選抜大会後は、同学年の左腕・山口大樹の台頭もあり、絶対的エースではあっても先発の機会は減った。チームが勝ち上がるためには、複数の投手が必要なことは重々わかっていた。それでも、悔しさはある。複雑な思いを抱えながら、投手陣の柱として右腕を振ってきた。

 この日が自身にとって10試合目の甲子園。登板のなかった昨春の選抜大会準々決勝以来のベンチスタートになった。今朝、選手たちに先発メンバーを告げた中井哲之監督は「高尾の目がぎらついて。こんな顔見たことないですね。良いピッチャーとか気の強い子はいっぱいいたけど、『なんで俺(が先発)じゃないんや』みたいな」と評した。

 最後の甲子園は、1回3分の2を投げて5失点で降板した。「結果がこうだった。悔しい気持ちはあるけど、自分がやれることはやってきた。仲間のみんなと(甲子園で)できたことは宝物」。試合後、涙はなかった。表情も穏やかだった。

 広陵のエースはどうあるべきか。それを突き詰めてきた。「勝てる投手。それも(プロ野球など)上のレベルでも勝てる投手」という高い目標を掲げ、ここまで来た。

 当然、将来の夢はプロ野球選手。進路については「明確に決まってないけど、社会人かプロを目指して、これから(考えたい)」と語った。(大坂尚子)

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