パリオリンピック™が8月11日に閉幕した。陸上競技は女子やり投の北口榛花(26、JAL)がトラック&フィールド種目では女子初の金メダル獲得と、新たな歴史を花の都で記した。しかしメダルは北口の1個だけで、2番目の好成績は男子110mハードルの村竹ラシッド(22、JAL)と同走高跳の赤松諒一(29、SEIBU PRINCE)、男子4×100mリレーの5位だった。来年の世界陸上東京大会に向けて、北口以外にもメダル候補の出現が課題となった。
明るい材料は入賞が「11」とオリンピックでは戦後最多だったこと。1年後の東京で、多くの種目で日本選手の活躍が期待できる結果だった。
史上初が多かったパリ五輪の陸上競技
人見絹枝の800m銀メダルから96年、北口が女子トラック&フィールド初の金メダルを獲得した。後世に語り継がれる快挙をパリ五輪で見せてくれた。
男子110mハードル5位の村竹も同種目日本人初の入賞、走高跳5位の赤松は同種目88年ぶりの入賞で過去最高順位タイだった。男子3000m障害8位の三浦龍司(22、SUBARU)はトラック種目初の2大会連続入賞、男子20km競歩7位の池田向希(26、旭化成)は競歩種目初の2大会連続入賞を達成した。
記録的には男子4×400mリレーが予選で2分59秒48、決勝で2分58秒33(6位)と日本新を連発。男子100mのサニブラウン・アブデル・ハキーム(25、東レ)が9秒96の日本歴代2位をマークした。女子1500mの田中希実(24、New Balance)は3分59秒70と、自身の日本記録に0.51秒に迫った。
メダルも含めた入賞者は以下の通り。
◆1位
女子やり投・北口榛花
◆5位
男子110mハードル・村竹ラシッド
男子4×100 mリレー・日本(坂井隆一郎・サニブラウン・桐生祥秀・上山紘輝)
男子走高跳・赤松諒一
◆6位
男子マラソン・赤﨑暁
男子4×400mリレー・日本(中島佑気ジョセフ、川端魁人、佐藤風雅、佐藤拳太郎)
女子マラソン・鈴木優花
◆7位
男子20km競歩・池田向希
◆8位
男子3000m障害・三浦龍司
男子20km競歩・古賀友太
男女混合競歩リレー・川野将虎&岡田久美子
入賞数「11」は、戦後最多だった前回東京五輪の「9」を上回った。
男子20km競歩の山西も金メダル候補
来年の世界陸上東京でも、一番の期待は北口になる。パリ五輪の金メダル獲得直後から、次の目標は「70m」とコメントしている北口。地元で金メダルを、と意気込むより、以前からの目標だった70mを目指す方が、プレッシャーを感じないで済むかもしれない。北口は昨年の世界陸上ブダペストでも金メダルを獲得した。優勝記録はパリが65m80、ブダペストは66m73だった。記録が出やすい試合で70mを投げておけば、どんな試合でも67mは投げられる。結果的に金メダルを続けることになるだろう。
世界陸上2大会連続金メダルは、男子20km競歩の山西利和(28、愛知製鋼)が19年ドーハ、22年オレゴンで達成している。だが五輪も含めて3個目の金メダルとなれば、五輪1個(04年アテネ)&世界陸上1個(11年テグ)の室伏広治(現スポーツ庁長官)もできなかった日本陸上界初の快挙となる。
しかし世界陸上東京に向けて、北口1人に期待を背負わせる状況にはしたくない。北口以外の金メダル候補はやはり、男子20km競歩の山西だろう。
競歩は歩型が崩れると警告が出る。3人の審判から警告(レッドカード)が出ると、
20km競歩は2分間ペナルティーエリアで待機する規則だ。警告が2枚出るとペースを落とさざるを得ない。その点山西は、世界でも有数の歩型が崩れない選手で、レース終盤でも強さを発揮する。しかし23年は歩型に不安が生じ、世界陸上ブダペストは24位と敗れた。24年2月の日本選手権は競技人生初の初の失格(警告4枚)に終わり、パリ五輪代表入りができなかった。
引退も考えたが5月にヨーロッパで20km競歩を2連戦し、2試合目のスペイン・ラコルーニャのレースに1時間17分47秒で優勝。そのレースでパリ五輪のメダリスト3人に競り勝っていた。東京で3個目の金メダルに挑戦するレベルまで復調している。
北口と山西。国際経験豊富な2人が、世界陸上東京に向けて陸上界を盛り上げていく。
競歩2種目と4×100 mリレーなどもメダル候補
競歩種目はパリ五輪で行われなかった35km競歩が、東京では実施される。この種目でオレゴン銀、ブダペスト銅と連続メダルの川野将虎(25、旭化成)が、当然メダル候補に挙げられる。パリ五輪はリレー種目だけの出場だったが、厚底シューズにも対応した。男子20km競歩は山西に加えて、池田向希(26、旭化成)もメダル候補。東京五輪、世界陸上オレゴンと連続銀メダルを獲得した。パリ五輪は7位と成績を落としたが、終盤の強さが戻ればメダルに挑戦できる。
パリ五輪5位の3種目も、今回は少し差が感じられたものの、成長があればメダル争いができる。村竹も赤松も「東京ではメダルを」と目標を口にしていた。
110mハードルは村竹に加え、ブダペスト5位の泉谷駿介(24、住友電工)もいる。2人が持つ日本記録は13秒04。五輪&世界陸上の決勝で13秒0台を出すことは簡単ではないが、2人とも13秒1~2台は出せるようになっている。
この種目の銅メダル記録は21年東京五輪が13秒10、22年世界陸上オレゴンが13秒17、23年世界陸上ブダペストが13秒09、そしてパリ五輪が13秒09だった。あと少しである。そのレベルの選手が2人いることも、この種目のメダル争いが期待できる大きな理由だ。
同様に男子走高跳の銅メダル記録は東京五輪2m37、オレゴン2m33、ブダペスト2m33、パリ五輪2m34だった。パリの赤松は2m31の自己新、これまでの国際大会でも自己記録前後を跳ぶ勝負強さを持っている。「東京では2m34を跳びます」と力強い。
男子4×100mリレーは過去に銅メダル2個、入賞8回と、トラック&フィールド一番の得意種目だ。パリ五輪では37秒78の5位。個人種目の100mで準決勝に進んだのがサニブラウン1人と、個々の走力のレベルアップが急務になっている。
ただ、銅メダル記録は37秒61で日本とは0.17秒差。予選2走の栁田大輝(21、東洋大)が不調で、決勝は別オーダーになった。予定通りのオーダーで臨めれば、メダル争いに加わった可能性はある。
過去最多の入賞数で盛り上がる世界陸上に
東京の入賞候補はパリ五輪入賞者に加え、22~23年の世界陸上で入賞経験がある以下の選手、種目がリストアップできる。
男子100m サニブラウン
男子20km競歩 住所大翔
男子35km競歩 野田明宏
男子4×400mリレー
男子走高跳 真野友博
女子1500m&5000m 田中希実
女子10000m 廣中璃梨佳
女子20km競歩 藤井菜々子
女子35km競歩 園田世玲奈
昨年の日本選手権35km競歩優勝の野田は、23年シーズンリストで世界2位。ベストパフォーマンスができればメダルも狙える力がある。
パリ五輪では43cm差で予選突破ができなかった男子やり投のディーン元気(32、ミズノ)も、まだまだ現役で頑張る意向を示した。世界陸上オレゴンでは9位と、やはり9位だった12年ロンドン五輪に続いて入賞に迫った。女子やり投は北口以外でも、パリ五輪11位の上田百寧(25、ゼンリン)、世界陸上オレゴン11位の武本紗栄(24、Team SSP)も、すでに決勝を戦った経験がある。
パリ五輪は故障の影響で予選落ちしたが、今季47秒99をマークした男子400mハードルの豊田兼(21、慶應大)も、準決勝で48秒前後の記録を出せば決勝に進むことができる。パリ五輪は助走変更が間に合わず予選落ちしたが、走幅跳で23年ダイヤモンドリーグ・ファイナル3位の橋岡優輝(25、富士通)も入賞候補。野田と同じでベストパフォーマンスができればメダルの可能性がある。
ここで名前を挙げた全員が入賞できるわけではないし、逆に今年後半から来年にかけての成長で入賞してくる選手も現れて欲しい。
メダルも含めた日本の入賞数は19年ドーハが「8」、22年オレゴンが「9」、そして23年ブダペストが「10」で世界陸上最多だった。東京大会では連日日本選手がテレビ中継を沸かせ、ブダペストの「10」やパリ五輪の「11」を上回る入賞数となることを期待したい。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
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