パリオリンピック™で初めて追加種目として採用されたブレイキン。世界ランク1位の「Shigekix」こと半井重幸(22、第一生命保険)は、開閉会式で日本選手団の旗手を務めるなど、金メダル最有力候補として今大会に挑んだ。結果は4位と惜しくもメダルを逃したが、見ている人に多くの感動を与えた。
五輪を終えたShigekixが都内でインタビューに応じ、3位決定戦で敗れたあとの笑顔と涙の理由、そして自信が思い描くブレイキンの未来などを語った。
Q.帰国後は休まれましたか?
Shigekix:実は日本に帰ってきて1回日本を出て、帰ってきました(笑)あまり休んでいないかなと思います(笑)今月(9月)はイベントや撮影などがあって来月は毎週末大会で、スケジュールがいっぱいなのは本当にありがたいことです。五輪が終わって帰ってきて暇だったらどうしようって思っていたので。
Q.少し羽を伸ばして休みたいとは思わないですか?
Shigekix:パリ五輪のステージ上で羽を伸ばしていました。それぐらい楽しめたので。パリ五輪に向けて準備してきた期間も長かったですし、取り組んだこともすごく多かったので、大変なことはもちろんあったのですがそれ以上に準備期間から楽しめていました。
日本のブレイキンシーンの先頭に立ち続けたひとりとして
Shigekixは14歳からBボーイとして世界最高峰の国際大会で数々のタイトルを獲得、パリ五輪では開閉会式で日本選手団の旗手を務めるなど、競技・個人ともに注目度の高さが伺えた。
Q.旗手を務めていかがでしたか?
Shigekix:本当に幸せでした。自分の人生にとってもかけがえのない時間でしたし、ブレイキン業界を代表してこういう役割を務めさせていただけたというのはブレイキンやダンスというものが世の中から認めていただけたという気持ちになりました。僕自身の人生にとってだけではなく、ブレイキン業界の方にとっても喜ばしいことだったんじゃないかなと思います。
Q.結構雨が強かったかと思うのですが。
Shigekix:ドラマチックでしたね。雨が降るハプニングみたいなのもなんか面白いじゃないかと思って。こんな開会式もあっていいんじゃないかって、そういう気持ちになっていましたね。今まで歴代の開会式と比べてもまた新しいというか、今までなかった試みがたくさんあった開会式だと思うので、そこに雨が降るぐらいのハプニングは演出としてあっていいんじゃないかなと思います。
金メダル有力候補として挑んだパリ五輪 3位決定戦を生解説
パリ五輪でのブレイキンは、1度のダンスバトルで対戦相手と交互に3回のダンスを披露し、審査員が各ダンスを5つの基準に則って評価・投票、多数決でその勝敗を決めた。アメリカのVICTOR(ビクター・モンタルボ)と銅メダルを懸けて戦った3位決定戦の様子を見ながら、当時の心境を語ってもらった。
Q.入場前はどんなことを考えていましたか?
Shigekix:精神統一みたいな感覚で。集中ももちろんなんですけど、楽しんでやるぞという。楽しむ気持ちを作っているというのが入場のタイミングかなと思います。
Q.3位決定戦をこれまで何度も対戦されてきたビクター選手と戦うことになったときはどんなことを感じました?
Shigekix:何度も対戦している相手と五輪という舞台で対戦できるというのはお互いにとって感慨深いというか、物語を感じましたね。
Q.実際の競技中はどんなことを考えているんですか。
Shigekix::踊っているときも楽しんでいるという感覚が強いんですけど、バトルなのでちゃんと「相手を倒してやるぞ」という強い意志と闘争心は持ちながら踊っていますね。ブレイキンはフィジカルな部分に注目されがちなんですけど、相手に送る目線やジェスチャー、音楽に対する反応、アプローチというのも大切です。3位決定戦も、同じ曲でも僕と相手の音への反応の仕方が全く違っていて、曲を聞いてどういう風に感じてどう表現するかというところも個性が出るところですね。
Q.3位決定戦の第3ラウンドでそれまで着ていなかった上着を着たと思うのですが、どういう意図があったのですか?
Shigekix:動きですね。立ち踊りから回転技に入ったときに肘を床に当てながらバランスをとるような技をしたんですけど、そのために着ました。上着を着ている方が滑りもよくなり、その技を一番いい状態で出せますし、今までも上着を着て練習や本番で踊っているので、このパリでも着ました。
Q.実際にご自身でパリ五輪の映像は見られました?
Shigekix:一回全部見ましたね。中継映像の振り返りや各メディアが上げていた切り取り映像をできるだけ見漁りました。
Q.見返そうと思ったのはなぜですか?
Shigekix:単純に自分がステージから見えている景色は鮮明に覚えていて、自分の中で楽しかったという感覚はあるのですけど、実際お客さんから見てどういうふうに見えていたのかとか、中継を見て応援してくださった皆さんからはどう見えていたのかという、その視点から見たいなというふうに思ったので見ましたね。
Q.Shigekix選手はどういうものを伝えたいと思ってバトルされていたんですか?
Shigekix:いちダンサーとして、Shigekixが挑む姿を通して伝えたかったことは、何かに全力で挑んでその瞬間・空間を存分に楽しんでいるということですね。現場や画面で見たというフィルターのかかった伝え方にはなってしまうのですけど、「今自分が熱中しているものにShigekixさんと同じように楽しんで挑みたいと思った」とか「明日の仕事頑張れそうです」という反響をいただいて、自分はブレイキンでしか伝えられないかもしれないけど、でもブレイキンで伝えられるブレイキンだけに限らないものってあるなと思っているので、それを伝えたかったというのが一番ですね。
敗れた後も笑顔「舞台に出るところから去るところまでがShigekix」
世界ランク1位として決勝進出が期待される中迎えた準決勝は、カナダのPHIL WIZARD(フィリップ・キム)にまさかの0-3で敗戦。
直後の3位決定戦でもアメリカのVICTOR(ビクター・モンタルボ)に0-3で敗れ、メダル獲得とはならなかった。思い描いた結果ではなかったが、対戦相手を全力で称え、最後までShigekixらしい笑顔で舞台を後にした。
Q.3位決定戦の後、サポートメンバーの方々と抱き合ったりしていましたが、どういう話をされていたんですか。
Shigekix:「よくやった!」「かっこよかったよ!」と色んな言葉を皆さんが伝えてくださいました。バトル直後の表情としては晴れ晴れとしていると思うのですけど、悔しい気持ちが本当はめちゃくちゃ強くて。でも表現者として、ステージに出るところから去るところまでShigekixでいるということを大事にしているので、自分の全てを出し切って、ちゃんと晴れ晴れとした表情で舞台を去っていくのが僕なりの表現だったかなと思います。
Q.結果が出るまでではなく、舞台を降りるまで笑顔でいることがShigekix選手の魅せ方なのですね。
Shigekix:そうですね。もし自分が観客席に座っていたら、登場した瞬間にこの人めちゃくちゃいいなとか、他の人と全然雰囲気が違うなとか感じると思うんです。始まっているんですよね、バトルの前から。
Q.一方で、舞台を去ったあとは涙もありました。
Shigekix:そうですね。ちょうどインタビューエリアに向かう途中でサポートメンバーの皆さんと気持ちを整理している時に決勝戦が始まって。自分が立ちたかった決勝戦を本当は見たくないんですけど、この瞬間の自分は絶対に決勝戦を目に焼き付けた方が良いと思って、目をかっぴらいてモニターを見ていました。自分が立とうとしていた対戦だからこそ涙が流れるくらい悔しいけど、この悔しさは噛み締めるものだなと思ったので、結果まで見てからインタビューに行きました。
Q.決勝戦は悔しい気持ちもありながらご覧になっていたと思うんですけれど、改めてご覧になっていかがでしたか?
Shigekix:当日決勝戦までもすごく彼らの良さが出ている素晴らしい踊りを、ムーブを見せていたので、決勝戦にふさわしい踊りバトルだったとすごく思いますね。もちろん悔しいしそこに立ちたい、自分がその登場人物でありたかったという悔しい気持ちは噛み締めながらも見ていました。
激闘を支えた栄養面でのサポート 五輪5か月前に「今までのShigekixを壊す」
メダル獲得へ向け、大会前から栄養面も見直してきた。日本代表選手のために味の素株式会社が日本五輪委員会(JOC)と取り組んだコンディショニングサポート活動「ビクトリープロジェクトⓇ」の支援を受けるなどし、長期的に活躍するための体づくりに着手。サポートディレクターの上野祐輝さんは「チャレンジングな取り組みをしました」と話す。
Q.選手の長期的なプランを立てる上での苦労などはありましたか。
上野さん:長期的イコール苦労ではないですけど、パリ五輪まで残り5か月ぐらいのタイミングで、よりエネルギッシュな自分を作るために今までのShigekix選手というものをいい意味で壊して新しいShigekix選手を作っていくというすごくチャレンジングな取り組みをしました。ストレスなく理想の身体を手に入れるために、彼の行動や表情の変化を見逃さないようにするということに注意していました。
Q.難しい食事の管理やコンディショニングなどを完全にサポートしてくれる存在というのは大きいですか。
Shigekix:大きいですね。もちろん自分自身でバランスをしっかり考えたりしているんですけど、どうしてもそこにプレーヤーとしての主観が入ってきてしまったりとか、精神面で耐えられるからといって無理をしたりとか、結果的に自分の足を引っ張ってしまうことがありました。その瞬間は自分が我慢できるからいいかもしれないが、プレーヤーとしてレベルアップしながら長い目で活躍するためには、より客観的に見た意見やアドバイスがすごく大事だなと思いました。
Q.ちなみにShigekix選手の勝ち飯はなんですか?
Shigekix:鰻です。即答で(笑)実際にパリ五輪でも、選手村に入る前夜に「だしトロロ鰻丼」というものを用意してもらって食べました。僕は元々鰻が大好きで、それを知った上でこういう献立はどうかというのをご提案していただきました。めちゃくちゃ美味しいです。
28年ロス五輪では未実施も…
パリ五輪では金メダルという「形あるもの」で結果は示せなかった。今後の五輪でも現在ブレイキンの実施予定はない。それでもShigekixは意外なほど前向き。「可能性が広がるかも」とブレイキンの未来に期待を膨らませる。
Q.去年、ロス五輪ではブレイキンの実施なしと発表がありました。しかし当時Shigekix選手は前向きなコメントを残されていたのが印象深かったのですが、その真意は?
Shigekix:まず、五輪競技に採用される前から、「ブレイキン」というカルチャーが存在していて、その歴史が積み重なり、認知度も人気度も右肩上がりで盛り上がってきました。そんな中パリ五輪で正式種目に決定というところで、すごく追い風を僕たちは受けました。その追い風を受けてそのままパリ五輪の当日を迎えるまでに既にとんでもない盛り上がりを見せて、良い形で大会が行われて、反響もすごくポジティブなものに溢れて。
ロス五輪から外れても、8年後のブリスベン(オーストラリア)では未定で、何もわからない状態です。わからないということは未知数で可能性も秘めているので、ブリスベン五輪までの期間というのは僕たちの新たな挑戦の期間になる。ワクワクしてる人たちを楽しませることに僕たちもワクワクしています。1年前にロス五輪から(ブレイキンが)外れたというニュースを受けたときに、最初僕は「むしろこれチャンスだな」という感情が湧きました。
この先の期間、これはもう僕たちの腕の見せ所だなと素直にそう思いました。
Q.今後ブレイキン界でどういう存在になっていきたいか教えてください。
Shigekix:まずはブレイキンをやっているいちBボーイとしての可能性を広げていきたいです。先頭に立って時代を切り開いていきたい、そういう存在になりたいという気持ちがすごく強いですね。僕はよく「自分の人生に稲妻が走った」と(表現する)。ブレイキンと出会った瞬間稲妻が走って、自分の人生がまるっきり変わるというか、全てブレイキンから学んで、ブレイキンを通していろんなものを見て、それが全て輝いて見える、そんな人生になったというふうにいつも話しています。そういう人をどんどん増やしていきたいというのは常に話していますし、自分がずっと大事にしているビジョン、モットー、 パーパス(目的)として、7歳の時にブレイキンを見て僕が受けた稲妻を1人でも多くの人に走らせたいなと思っています。
その思いのもと、日本全国、世界各地の子どもたちなどにブレイキンの魅力や僕の活動を広げていきたいなと思っています。
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