9月22日に終わった大相撲秋場所で関脇大の里が13勝2敗で2度目の天皇賜杯を手にした。25日の番付編成会議と臨時理事会を経て、大関に昇進。伝達式では「唯一無二の力士を目指し、相撲道に精進します」と口上を述べた。初土俵から所要9場所での新大関は、昭和以降で羽黒山、豊山、雅山の12場所を上回る最速。新入幕から所要5場所も、昭和の大横綱大鵬の6場所を更新した。
まだ大いちょうも結えないちょんまげ姿の大の里が、新時代を開く記録ずくめの優勝劇を演じた。192cm、182キロの体を活かして初日から11連勝。12日目に若隆景に敗れたものの、13、14日目と琴桜、豊昇龍の両大関を破り、優勝を決めた。
スピードある攻めは、初優勝した5月の夏場所は得意の右差しが光った。だが、7月名古屋場所でそれを研究されると、秋場所は左おっつけと、両手突きの立ち合いを習得した。「令和の怪物」は土俵に上がるごとに成長を続けている。
大の里の快進撃は素晴らしいの一言だ。しかし、日体大出身の24歳は腰高、右を差せなかった時の脇の甘さなど、まだ欠点もある。その若武者を簡単に「独走」させてしまった責任は、2人の大関にあると思う。
ともに秋場所は大の里に飲み込まれたうえ、優勝争いにも加われず、最終的に8勝7敗というふがいない成績に終わった。けがを抱えて調整が万全ではなかったのかもしれないが、休場している照ノ富士に変わって土俵を締めなければならない番付最上位者が、大の里の引き立て役にもならなかった。
不振の原因は、両者とも立ち合いの圧力に欠けることだろう。琴桜の場合は懐の深さと前捌きのうまさがあることで、「負けない相撲」「うまい相撲」が目につく。だが、その分、頭で考えすぎるきらいがある。それがはっきりと出たのが9日目の宇良戦だった。
宇良は相手の出足を逆手に取る業師だが、このところは前に出る押しを磨いている。それでも一気に持って行く馬力はまだない。低い体勢から粘って相手に引かせるのが作戦だ。それなのに、この日の琴桜はそんな目の前の押しよりも、とったりなどの奇襲や懐に入られての肩透かし、突き落としなどを警戒していたのか、一向に前に出ていかない。下から攻められて徐々に腰が浮きだし、最後は土俵の外に押し出された。
夏巡業で腰痛に見舞われたが、言い訳には出来ない。本人は宇良戦後、「内容が悪いので、きょうの相撲以前の問題。切り替えます」と小さく話すのがやっと。土俵下でみた九重審判長(元大関千代大海)も、「警戒しても、宇良は立ち合いに変化するわけでもない。『どうしたの?』という感じ」と首を傾げた。
一方の豊昇龍は名古屋場所の終盤に右足を痛めて途中休場。秋場所への本格的な実戦稽古は初日10日前の横綱審議員会の稽古総見からと、出遅れは明らかだった。粂川審判長(元小結琴稲妻)が「消極的。勝ちたいという意識が強いのでしょう」と序盤に指摘したように心と体がかみ合わず、6日目に4敗目。その敗れた王鵬戦ではわずかに頭を下げて土俵を降りたが、呼び戻されて「礼」のやり直しを命じられる一幕もあった。
元々、下半身には定評があり、攻め込まれても投げで逆転することが多々ある。だが、それに頼り過ぎているために踏み込みが甘い。大の里に優勝を決められた14日目も、両手突きで起こされると、そのまま押し出されて何もできずに完敗。土俵の外までふっ飛ばされた。
豊昇龍は大関昇進を決めた昨年名古屋場所で1度賜杯を抱いているが、琴桜はまだ優勝経験はない。3大関になる来場所は、両者ともすでに優勝回数では新大関に後れを取る形になる。八角理事長(元横綱北勝海)は先輩の2大関について、「鍛えなおさないといけない。横綱、大関が8人いてこの成績(7敗)じゃあないからね。2人しかいないんだから」と珍しく厳しい口調でコメントした。
相撲協会も、もう大の里中心で動いているのではないか、と思われる節も出ている。千秋楽の三賞選考委員会。協会側から提案され、選ばれた殊勲賞は千秋楽も勝って12勝3敗とした若隆景だった。通常の殊勲賞は勝ち越して横綱を倒した力士か、優勝者。勝ち数は関係ない。若隆景は好成績だが、横綱は不在で大関戦も無し。となると、やはり勝った時点ではまだ関脇だった大の里に土を付けたことが評価対象と思われる。期待の新大関は、もうすでに「横綱並み」の扱いということだ。
関係者もファンも、「大関大の里」には満足していない。11月の九州場所で連続優勝か、優勝に準ずる成績を挙げれば、2025年にはさらに上の番付の声もかかるはずだ。古傷を抱える照ノ富士は現役の終焉が迫っている。立ち塞がる琴桜、豊昇龍の2人は、今後よほどの精進で存在感を示さないと、追いつかれただけでなく、すぐに追い越されてしまう勢いが、今の大の里にはある。
(竹園隆浩/スポーツライター)
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