強靭(きょうじん)な足腰が生むダイナミックな突進。陸上競技で培ったスピードとバネを生かした変幻自在のランニングスキル。そしてフォワードだけでなく、バックスをもこなす規格外のポテンシャルを持つ男。エネルギッシュなオールラウンドプレーヤー、埼玉パナソニック・ワイルドナイツ・注目のルーキー、谷山隼大選手(22)に迫る。
※谷山選手の年齢は24年11月時点
■異彩を放つ次世代ラガーマン・谷山隼大
埼玉パナソニック・ワイルドナイツ この記事の写真 谷山選手「最初、大学1年生の時はCTBをやって、大学3年4年はナンバー8をやっていました」
谷山選手は一男三女のラグビー一家に生まれ、4兄妹皆が、世界を舞台に戦うラグビープレーヤーを目指す。その素顔は、どんな時でも兄妹をサポートする優しいお兄ちゃんだ。
谷山選手「妹はセブンズでオリンピック目指していると思うので一緒に立てたらうれしいなと思ってます」
幼いころからの憧れ、同郷の福岡県が生んだヒーローと同じ道を歩み、世界を目指す。
憧れのヒーローと同じ道を歩む 福岡堅樹さん(32)「強さだけでなく速さも兼ね備えた選手ではあるので、チームを必ず前に進めてくれる頼もしい選手なのかなと思ってます」
異彩を放つ、次世代ラガーマン、憧れの先輩が歩んだ轍(わだち)を追いかけ、世界へとつながる苦難の道を突き進む、ワイルドな奴である。
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■フォワードもバックスも…万能プレーヤーとして期待■フォワードもバックスも…万能プレーヤーとして期待
1カ月後に迫るリーグワン、4年目のシーズン。初代王者・埼玉パナソニック・ワイルドナイツは、毎年プレーオフトーナメントに進出している、誰もが知る常勝軍団。だが、この2シーズンは、いずれもファイナルで苦杯をなめている。
そんな王座奪還に挑むワイルドナイツに、即戦力としての呼び声が高いルーキーがいる。
筑波大学出身の谷山隼大選手だ。身長184センチ、体重95キロ。日本人ナンバーエイトとしては、平均的サイズながら、強靭な足腰が放つ大きなストライドで、驚異的な突破力が持ち味。
さらに、スピードあふれるランニングで、バックスもこなす。フォワードとバックス、どちらもできる万能プレーヤーとしての活躍が期待されている。
谷山選手「(Q.どれぐらいポジションをやった?)最初、大学1年生の時はセンターをやって、大学2年でウイングにチャレンジして、大学3、4年はナンバーエイトをやっていました。まあ割と同じことを求められていたので、一つひとつチャレンジして課題克服していくだけかなと思っています」
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■ポテンシャルを証明した試合■ポテンシャルを証明した試合
福岡県で生まれ育った谷山選手は、小学1年生で楕円球と出会う。同時に相撲クラブに通い、強靭な足腰を作り上げた。
中学に上がると、ラグビーと陸上競技を両立、走り幅跳びを専門とし、スピードとバネのある走力に磨きをかけた。
高校は、地元の古豪・福岡高校に進学。ラグビーに専念すると、相撲や陸上競技の経験を生かし、その才能が開花。花園出場はかなわなかったが、高校日本代表に選出された。
そんな谷山選手のポテンシャルを証明する試合映像が残っていた。
背番号12、センターとして先発した谷山選手だが、フォワードの位置でラインアウトに参加。密集からボールをパスアウト、画面から消えて、いつの間にかバックスのラインに戻る。
ブレイクダウンを繰り返すが、なかなか前進できない仲間たち。だがその時、スタンドオフにポジショニングした谷山選手が、絶妙なキック、味方のトライを演出した。
卒業すると筑波大に進学。身体能力とラグビーセンスを生かし、ナンバーエイトとセンターの二刀流で活躍、キャプテンとして、大学選手権ベスト8へとチームを牽引(けんいん)した。
そして、ワイルドナイツの一員となり、リーグワンに挑もうとしているのだ。
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■目標は…憧れの存在が躍動した「世界の舞台」■目標は…憧れの存在が躍動した「世界の舞台」
「W杯とオリンピックは目標」憧れの人の後を追うように福岡高校から、筑波大学、ワイルドナイツと進んだ。
3年前、医師になるために現役を引退した人物、彼のヒーローとは…。
谷山選手「(Q.憧れの選手は?)福岡堅樹選手です。福岡堅樹さんがいる代が花園に出て、そこで活躍されていたのを見たので、地元のスターというのもあって、ずっと憧れの選手という感じですね」 福岡さん
「今までここまで全く同じルートを通ってきてる選手というのが他にいないので、そういった意味でもより特別な気持ちで応援してます」
谷山選手が目指す目標は、憧れの存在・福岡堅樹さんが躍動した、世界の舞台。
谷山選手「世界中の人がこいつすごいなとか驚くようなプレーをしたいと思ってて、自分もW杯とオリンピックは夢というか目標なのでチャレンジしたいなと思ってます」 福岡さん
「やっぱり身体能力の高さというのは非常に目立つのかなと思います。本当にまだ若いですし、未来は明るいと思うので、ワイルドナイツの中で揉まれて、そこでポジションを勝ち取ることが何より代表に入る1番の近道だと思うので、普段の練習からやっぱりアピールを頑張ってほしいなと思います」
「日本が世界に誇るスピードスター」福岡さんが太鼓判を押す谷山選手。ワイルドナイツでは、ポジションをバックスに絞るという。
谷山選手「ナンバー8のほうが向いてるって時々言われるんですけど、自分自身はやっぱそのランで抜いていってる人とか、ラインブレイクする姿見て、ラグビー楽しいなって思ってたので、今はやりたい13番をとことんやろうと思ってます」
しかし谷山選手が選んだ「13番」、「センター」というポジションは、イバラの道だ。
ワールドカップ王者・南ア代表のダミアン・デアレンデ選手を筆頭に、ジャパンの中心選手、ディラン・ライリー選手、リーグワン新人賞の長田智希選手など、すでに世界で活躍するライバルたちが、チーム内に立ちはだかる。
ロビー・ディーンズ監督「ワイルドナイツにはライリー、デアレンデ、アソなど経験豊富な選手がいる。今は谷山もセンターをやっているが将来的にはハイブリッドなプレイヤーになるはずだよ」 谷山選手
「いつかは勝たないといけないと思ってるんで。目標がワールドカップとかオリンピックとかってなると、今いる選手たちを超えていかないとそこには届かないのかなと思うので、そこを考えると『やるしかないか』っていう感じですね」
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■兄よりひと足先に世界を経験した妹■兄よりひと足先に世界を経験した妹
4歳年下の妹・谷山三奈子選手ラグビープレーヤーであった父の影響で楕円球を手にした谷山選手。4人兄妹の長男で、姉、そして妹2人も現役でプレーをするラグビー一家である。
4歳年下の妹・三奈子選手は、日本体育大学・女子ラグビー部に所属。この9月に韓国と中国で行われたアジアラグビーセブンズシリーズに出場。女子セブンズ日本代表としてデビュー、兄よりひと足先に世界を経験している。
三奈子選手「先にキャップ取れたのはすごくうれしかったですし、ライバル心ちょっと持たれてるので、私もライバル心持って負けない。お兄ちゃんだけには負けないと思ってます」 谷山選手
「先越されちゃいましたね。今さら焦ってもしょうがないので、本当に地道にやっていこうかなと思うんですけど、妹にもやっぱ、妹はセブンズでオリンピック目指してると思うので、夢は一緒に立てたらうれしいなっていうふうに思ってます」
不運なことに谷山選手は、高校日本代表、さらにU20日本代表と、新型コロナウイルスの影響で、海外遠征が中止となった世代のため、世界を経験していない。体が大きくフィジカルの強い外国人プレーヤーとの試合経験が圧倒的に不足している。
谷山選手「U17は韓国に行くことができて、日中韓の大会があったんですけど、高校代表の時はコロナで中止になって、大学でも同じチームに外国人の選手とかいなかったので、ちょっと体大きいなとか思っちゃいますけど」
「こないだガンターさんにやられました。バーンって行かれました」
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■兄妹での飛躍を誓い合った谷山■兄妹での飛躍を誓い合った谷山
この日は、シーズン開幕に向けた、横浜キヤノンイーグルスとの強化試合が行われた。各国のトッププレーヤーたちが数多く在籍するイーグルス。谷山選手にとっては、世界規格のプレーヤーと体をぶつけ合う絶好の機会だ。
横浜キヤノンイーグルスとの強化試合試合は、序盤からワイルドナイツが劣勢を強いられる。センターとして先発出場した谷山選手は、ボールを持って果敢に仕掛けるが、相手ディフェンスに阻まれ、持ち前の突破力をアピールすることができない。
しかし試合終盤、ニュージーランドのトッププレーヤーでもあるヴィンス・アソ選手が谷山選手に替わって出場。すると、そのアソ選手が試合を動かし、ワイルドナイツが猛反撃で、逆転勝利を挙げた。
谷山選手「やっぱなんかビビっちゃいますね。ハラシリさんとマフィさんとかいたんで、ちょっとまあ、おーって」
世界に挑むための第一歩は、ワイルドナイツでのレギュラー獲得が絶対条件。苦い経験となったが、谷山選手はポジティブに前を見つめていた。
試合後、谷山選手が隣にある熊谷ラグビー場のBグラウンドに案内してくれた。
谷山選手「あーいました、あの黒ヘッキャの」
そこには、女子セブンズ・デベロップメント・スコッド合宿に参加する三奈子選手がいた。
谷山選手「ドロップキックまじ巧いんすよね、うちの妹。今から蹴ります。おー!僕が教えました」
パリオリンピックが終わって、およそ3カ月。次のオリンピックのメンバー入りに向けて、日が暮れるまで練習を行っていた。
三奈子選手「私はお兄ちゃんの試合見ること多いのでそこの試合見て頑張ってるなと思って。私も頑張ろうとは思いますね」 谷山選手
「兄として妹よりはちょっとうまくあり続けたいので、さすがにやっぱそこのスキルレベルだけはちょっと開けないようにちょっと今負けてるかもしれないですけど、上げていかないとなと思います」
兄妹での飛躍を誓い合った谷山選手。この後、世界トップレベルの強豪を迎えうつ。
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■ラグビーとは「究極のスポーツ」■ラグビーとは「究極のスポーツ」
シーズン開幕まで2カ月を切ったこの日、ワイルドナイツはプレシーズンマッチ、最大の山場を迎える。相手は、世界最高峰のアタッキングラグビーで知られる「スーパーラグビー」の強豪。オーストラリアの「レッズ」だ。
オーストラリアの強豪「レッズ」との試合谷山選手にとって、初めてとなる世界トップレベルとの対戦。憧れの先輩が歩んだ道を目指すためにも、ここで結果を残さなければならない大事な試合だ。
試合開始わずか7分、スーパーラグビーのレベルの高さを見せつけられ、2連続トライを奪われてしまう。
谷山選手のターンオーバーからパスがつながる、意地を見せるワイルドナイツ。
しかし、相手の素早い攻撃を受けきれず守備での連携ミスから失点が続き、29対59で敗れた。
ロビー・ディーンズ監督「谷山はスタートラインに立ったばかりでまだまだ成長している段階だよ。ラグビーを楽しみ熱意を持っているからチームのためにいいプレーをしてくれるよ」
屈強な外国人選手と戦い、谷山選手は世界とのレベルの差を痛感した。
谷山選手「きょうは結構きつくて、まだ自分の思ったような形にはならなかったというのが正直なところで、ちょっとプレッシャー感じてたのかなと思います。13番で頑張っていこうと思っているので、目標となる選手が周りにたくさんいるので、その人たちと比較しながら、自分の強みを見つけて伸ばしていきたいと思います」
ルーキーながら、スタメンに抜擢されチームに勢いをもたらす谷山選手。経験値の不足を補う、ポテンシャルは十分だ。
リーグワン開幕まで、あとわずか。笑顔を絶やさない男が、王座奪還のあらたなピースとなる。
谷山選手「(Q.あなたにとってラグビーとは?)今までやってきた中で一番楽しいスポーツっていうのはもちろんあるんですけど、どこまでいっても課題が山積みでやることもたくさんあるので、そういった意味では究極のスポーツかなと思ってます」
過酷なポジション争いは、まさに修羅の道。不屈の精神で、憧れの背中を追いかける。
兄妹で切磋琢磨し、目指すは世界へつながる道。
オールラウンドプレイヤー・谷山隼大選手、規格外のポテンシャルで新たな未来を切り拓く、ワイルドな奴である。
■ラグビーウィークリー
■ジャパンラグビー リーグワン 2024-25 試合日程
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