第一生命グループの2枚看板、鈴木優花(25)と小海遥(21)のパリオリンピック™代表コンビが、駅伝前としては過去最高の状態で仙台入りする。
女子駅伝日本一を決めるクイーンズ駅伝が11月24日、宮城県松島町をスタートし、仙台市にフィニッシュする6区間42.195kmのコースに24チームが参加して行われる。
第一生命コンビのパリ五輪は、マラソンの鈴木が「やれることはやれた」と、自身でも納得のできる走りで6位に入賞した。それに対して10000mの小海は、「世界とすごく差があることを見せつけられた」と痛感した19位だった。しかし「国内レベルと自分を照らし合わせることはなくなりました。世界と自分を比べるようになった」(小海)という認識で2人は一致している。
パリ五輪後のダメージは2人とも小さく、帰国後はクイーンズ駅伝に向けたトレーニングは順調だという。パリ五輪代表コンビを中心とした第一生命グループが、何かをやってのけるかもしれない。

マラソンを通して駅伝の走り方にも変化が現れそうな鈴木

パリ五輪を経験したことで、鈴木の視線も高くなった。
昨年のMGC(マラソン・グランドチャンピオンシップ。パリ五輪代表3枠のうち2人が決定)に優勝し、パリ五輪では6位に入賞した。自己記録は2時間24分02秒だが、日本選手間では追われる立場になった。

「パリ五輪が終わってからは世界範囲でランキングなどを見ているので、追われる立場という感覚はなくて、世界に対して自分がどこまで行けるのか、そういう挑戦をしていきたい気持ちです」

練習に向かって行く姿勢が以前よりも前向きになったという。

「やってやるぞ、という気持ちが自然に出てくるようになりました。ストレッチや動きづくり(をより丁寧に行い)、ちょっとした意識付けなどで違いが生まれていると思います」

後輩の櫻川響晶(22)は「鈴木さんは体の使い方をすごくわかっていらして、補強や動きづくりのドリルを走りにつなげています」と感じている。早瀬浩二監督は「練習でも1km3分20秒(マラソン換算で2時間20分39秒)をイメージするのではダメだと、意識を変えている」と言う。

その鈴木がクイーンズ駅伝では良い走りができていない。入社1年目の22年は故障の影響で欠場し、2年目の昨年は3区で区間8位。1区の小海が区間2位で滑り出し、2区の櫻川から3位でタスキを渡されたが、5位に後退してしまった。MGCから6週間後のスケジュールで「スピード練習不足」だった。それに対して今年はパリ五輪から3カ月以上の間隔で、10月19日には5000mを15分47秒80で走ってもいる。

「思った以上に上がってくるのが早かったと思っています。実業団に入って駅伝では良い印象を持てていませんが、今年は最低限、納得いく走りをしたい。この1年で状況を俯瞰的に見て走ることができるようになりました。以前の駅伝はただ前を追っていく走りで、当時はそれが成長につながりましたが、マラソンをやってくる中で自分をコントロールする走り方ができるようになったんです。レースが動く瞬間が感覚的にわかるようになりました。そこをパリ五輪でも経験したばかりです」

第一生命グループは前半でトップ争いに加わり、最終的には3位以内でフィニッシュすることを目標としている。鈴木と小海で1、3区を担う可能性が高い。1区なら集団で走るし、3区でも集団か、相手が見える位置で走る。今年の鈴木は駅伝でも、ライバルチームの選手たちにとって相当にやっかいな相手になる。

昨年1区の悔しさが変わるキッカケになった小海

小海にとってパリ五輪も自身が変わるキッカケだったが、昨年のクイーンズ駅伝も同じように大きなキッカケになった。1区で区間2位は健闘だったが、五島莉乃(27、資生堂)に7.0kmの距離で39秒差をつけられたことがショックだった。

「五島さんがスタートから飛ばして、気持ちでは付いて行かない選択肢はなかったのに、付いて行くことができませんでした」

昨年の1区も客観的に見れば失敗ではないが、その後の小海はトラック、駅伝とも全国3位以内を続けている。それを可能にしているのは、小海の練習姿勢だと早瀬監督は指摘する。

「練習がフリージョグの日でも必要だと感じたら80分走ったり、休みの日でも(次の負荷の高い練習につなげるために)リズムを上げたジョグをしたりします。周りがやっていることに流されず、自分がやらないといけないことを判断して、自分の行動をコントロールする。強い意思がないとできないことですが、だから小海はレースを外さないのだと思います」

パリ五輪から帰国後は、練習でイメージできるペースを400m74秒(10000mに換算すると日本トップレベルの30分50秒)から、72秒(10000m換算で世界と戦える30分00秒)にアップした。そのペースで走り続けられるイメージの距離は、「延ばせてきています」と小海。

昨年は7月のアジア選手権10000mに優勝したが、その後ケガをしてしまい練習が中断した。クイーンズ駅伝には「ぎりぎりで合わせた」という状態だった。

「今年は上半期も去年より良くて、ケガもありません。いつもは試合前に自分の調子は話さないタイプですが、今年は良い感じで練習が継続できています。どうしたら駅伝にピークを合わせられるんだろう、と考えて今年はここまで来ました」

小海が自身の走りで見て欲しいところは、「前半から(速いペースで)突っ込んで、つらくなってきてもチームのためにペースダンしない走り」だという。仮に1区で五島と再戦しても、昨年のように最初から離れたりはしない。3区で前にライバルチームがいれば、一気に追い上げるだろう。

鈴木&小海の走り次第で優勝争いも

マラソン五輪代表の鈴木とトラック代表の小海。2人が1区と3区に起用されると予測できるが、どちらの区間になるかはわからない。それは鈴木がマラソン選手だからスタミナ型と、一概に言えないからでもある。大東大2年時には10000mで学生歴代2位(現歴代4位)の31分37秒88をマークし、駅伝でも前述のように前半からハイペースで飛ばして区間賞を取っていた。
現在はチームメイトの小海の方がスピードはあるが、鈴木も練習で食い下がっている。

「近々では4~5kmプラス1kmの練習があって、遥ちゃんと私が5km、他のメンバーは4kmくらいを走ったんです。私も5kmは難なくこなすことができて、多少は遥ちゃんの練習に付けるようになった、と感じました」

しかし2人のキャラは対照的だという。年齢的には鈴木が3学年上になるが、「私は練習でレースよりもそわそわするのですが、遥ちゃんは淡々としています」と、年下選手の落ち着きに尊敬の思いを持っている。

「プラス1kmは遥ちゃんが3分切り、私は3分00秒まで上げていい、という設定でした。遥ちゃんが一番前、私がその後ろからスタートするために並んでいたのですが、3分切りと3分00秒ならそれほど差は生じないかもしれません。私が付いて走るか少し間をとって走るか迷っていたら、遥ちゃんが察してくれて『後ろについてもらっても大丈夫ですし、どちらでも大丈夫です』と言ってくれました。本当にしっかり者タイプなんです。言うことははっきり言いますし。考えすぎたり、不安が出てしまったりする私とは違いますね」

そんな2人が同じオリンピックを経験して、意識を高く持って世界に挑む意思を強くした。そのことばかり考えているわけではないが、練習後のダウンジョグを一緒に行うなど、気持ちが通じる部分はある。

「このチームだから2人が育っているのかもしれません」と早瀬監督。「山下(佐知子)前監督(現エグゼクティブアドバイザー兼特任コーチ)が第一生命グループの伝統を作って、今もスタッフが充実しています。ノビノビした中で頑張る雰囲気ができていますね。2人が海外合宿などに行っても他の選手は妬んだりしないで応援します。2人が頑張るなら自分たちも、という気持ちになっています」。

パリ五輪代表2人を中心とした雰囲気の良いチームが、駅伝になったときにどんな力を発揮するのだろうか。この1年間つねに、日本トップクラスの戦績を残してきた小海がその力を発揮すれば、優勝争いに加わることができる。鈴木は区間上位と予想されるが、想定以上の力を発揮して区間賞を取る可能性もゼロではない。そのとき第一生命グループの、13年ぶりの優勝も見えてくる。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)

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