台湾のTSMC(台湾積体電路製造)が熊本県菊陽町に建設した第1工場が、本格的な量産を開始した。総投資額8,600億円を投じたこの工場は、日本の先端半導体製造の復活を象徴するプロジェクトとして、国内外から大きな注目を集めている。日本経済産業省は、TSMCの進出を日本の半導体産業再生の「起爆剤」として位置づけている。
熊本工場の技術的意義
熊本工場は12ナノメートルから28ナノメートル世代の論理半導体を製造するファウンドリー(受託製造)工場で、月産5万5,000枚の生産能力を持つ。いわゆる「成熟プロセス」と呼ばれる中世代の技術だが、自動車用半導体やIoT機器、産業機器の需要が急増しており、世界的な供給不足が続いている分野である。
特に、自動車の電動化と自動運転技術の進展に伴い、一台あたりの半導体搭載数は2019年の約500個から2025年には1,000個以上に倍増する見込みである。TSMCの熊本工場は、この急増する自動車用半導体の需要に直接対応する役割を担うことになる。トヨタ自動車、ソニー、電装大手のデンソーなどが出資する「JASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)」の設立により、日本企業の技術的関与も深まっている。
地方創生への波及効果
TSMCの工場建設は、熊本県にとって単なる企業誘致にとどまらない、地域経済全体の構造変化をもたらしている。工場の操業に必要な従業員数は1,700人で、うち8割が地元採用となる予定。熊本県内の大学や専門学校では、半導体関連の教育プログラムが急増し、学生の志望動向も変化している。
関連企業の集積も進んでいる。半導体製造装置メーカーの東京エレクトロンや、材料メーカーの信越化学工業、レジスト(感光材)メーカーのJSRなどが、熊本工場に近接したサプライチェーンハブの設立を検討している。経済産業省の試算では、TSMC関連の投資が熊本県内に10年間で累計4.3兆円の経済波及効果をもたらすと見ている。
第2工場建設と今後の展望
TSMCはすでに熊本第2工場の建設も発表しており、こちらは6ナノメートル世代の先端プロセスを導入する予定。総投資額は2兆円規模に達し、2027年の稼働を目指している。日本経済産業省は、両工場への補助金として約1.2兆円を支出する方針で、経済安全保障の観点から半導体の国内生産を重視している。
一方で、電力供給の確保や人材確保が課題となっている。半導体製造は膨大な電力を消費するため、九州電力の送電網の強化が急がれている。また、全国規模で半導体技術者の不足が深刻化しており、既存の工場からの人材引き抜きも懸念されている。経済産業省は、2030年までに年間2,000人規模の半導体技術者を育成する目標を掲げ、大学や専門学校への支援を強化している。
出典:TSMC / 経済産業省 / 熊本県
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