米テスラが開発しているヒト型ロボットの試作機=同社の配信動画より
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

ヒューマノイド(ヒト型ロボット)は2024年に入り、大きな注目を集めている。同年1〜3月の資金調達額は既に通年ベースで過去最高に達した。

いくつかの開発会社が、人間と同様の作業をこなすために設計されたヒト型ロボットを年内に発表しようとしている。生成AI(人工知能)や強化学習などのテクノロジーがこの進歩を後押ししている。だが当初の影響は限定的で、広く商用化され、役立つようになるには3〜5年かかるだろう。

今回のリポートでは、ヒト型ロボットが短期・長期の双方で大きな影響を及ぼすとみられる6つの産業分野と、これを可能にするテック企業について取り上げる。

・製造業

・物流

・小売り

・医療・ヘルスケア

・建設

・防衛・災害対応

ヒト型ロボット企業は複数の産業分野での活用を目指している(データは24年3月22日時点)

製造業

多くの工場では自動点検、協働ロボットアーム、溶接ロボットなど従来のオートメーション機器が幅を利かせているが、ヒト型ロボットは組み立て、施設内のモノの移動、機械の操作などの作業を担う大きな機会がある。

テスラは人材採用と社内の試行の2つの点で、製造業向けヒト型ロボットの開発を最も積極的に進めている企業の1つだ。同社は21年、ヒト型ロボット「テスラボット」(現「オプティマス」)を発表した。オプティマスには自社製の半導体(システム・オン・チップ=SoC)と運転支援機能「FSD」が搭載され、意思決定や動きを支えているとされる。テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は24年1月の決算説明会で、早ければ25年にもオプティマスの出荷を開始できると話した。

米フィギュアAI(Figure AI)はアマゾン・ドット・コム、米インテル、エヌビディア、米マイクロソフト、オープンAI、韓国サムスン電子の投資部門から出資を受けており、最近のシリーズBラウンドでは6億7500万ドルを調達した。フィギュアAIは独BMWと組んで自動車の生産にヒト型ロボットを導入する方針を明らかにしている。まずは有用な用途を特定し、徐々に導入するという段階的なアプローチをとる。

同様に、米アプトロニック(Apptronik)は24年3月、自社のヒト型ロボットの製造業での用途を見いだすため、独メルセデス・ベンツと提携すると発表した。同社は23年にヒト型ロボット「アポロ」を発表している。

ノルウェーの1X、米スーパードロイド・ロボット(SuperDroid Robots)、中国の小鵬鵬行(Xpeng Robotics)なども現在または将来の対象分野として製造業に言及しているが、全容を明らかにしていない。

物流

多くのヒト型ロボット企業は資材運搬、ピッキング・梱包、トレーラーからの荷下ろし、宅配など物流での活用を目指している。こうした業務では自動搬送車(AGV)や自律走行搬送ロボット(AMR)、自動倉庫(ASRS)など他のロボットと共に作業する可能性がある。

試験運用は既に進められている。例えば、米アジリティ・ロボティクス(Agility Robotics)はアマゾン、米GXOロジスティクスと個々に提携し、配送テストセンターでヒト型ロボット「ディジット」を展開している。最近では、米オレゴン州に年産1万台以上を量産できる工場を開設した。24年に納入を始める予定だ。

アプトロニックはヒト型ロボットを倉庫に展開し、箱や木箱を運ばせる計画だ。フィギュアAIも近い将来の倉庫での利用を目指している。

韓国・現代自動車傘下の米ボストン・ダイナミクスもこの分野で活発に活動している。業界の草分けである同社は倉庫の荷物運搬ロボット「ストレッチ」を提供しており、これをヒト型ロボット「アトラス」と協業させる構想を抱いている。

一方、自動配送のような用途での実用化ははるかに先になりそうだ。例えば、米フォード・モーターとアジリティ・ロボティクスは19年に提携し、ディジットが自動運転車から玄関先まで荷物を運ぶテストを実施した。だが両社は新たな情報を明らかにしておらず、商用化の態勢が整っていないことを示唆している。

小売り

人手不足は小売りの最大の懸案になっている。米フォレスター・リサーチによると、23年初期の時点で人手不足の状態で営業している小売りは63%に上った。導入はまだ何年も先だが、ヒト型ロボットが人手不足の解消に貢献する可能性がある。

小売りに最も力を入れている企業の1つは1Xだ。同社はオープンAIや米タイガー・グローバル・マネジメントなどから計1億3400万ドルを調達している。米セキュリティー会社ADTコマーシャルと年中無休で自動パトロールする業務用セキュリティーロボットを共同開発し、ノルウェーの小売りテック、ストロングポイントと商品を陳列棚に戻す作業で組むなど、複数の企業と提携している。

一方、サンクチュアリAI(Sanctuary AI、カナダ)は23年初め、カナダの小売りカナディアン・タイヤと提携した。サンクチュアリのヒト型ロボットはアプトロニックからハードウエアの提供を受けており、小売りの110の作業を正確にこなせる。

医療・ヘルスケア

医療・ヘルスケア業界には技術的障害から規制の壁まで、ヒト型ロボットの短期的な導入を阻む多くの課題がある。

しかも、ヒト型という形状は治療や手術の専用ロボットに対する強みにはならないようだ。制限が少なく家ごとに状況が異なる在宅ケアでの活用が最適だろうが、こうした用途の開発には数十年かかる可能性がある。

優必選科技(UBTECH、中国)や米アイオロス・ロボティクス(Aeolus Robotics)が最近投入したロボットのように、清掃や消毒では当面は非ヒト型が有望だ。病院では車輪付きの移動手段が使えるため、二足歩行のヒト型ロボットは最適な形状ではなさそうだ。

それでもなお、一部の企業は医療・ヘルスケアでヒト型ロボットを試している。例えば、米TRUコミュニティーケアは21年、4日間の実証で米ビヨンド・イマジネーション(Beyond Imagination)の遠隔操作のヒト型ロボット「ビオムニ」を試した。ビオムニは患者の体温測定や診察など、基本的な作業をこなした。

一方、中国の傅利葉智能集団(フーリエ・インテリジェンス)は医療分野を含む研究開発機関向けのヒト型ロボットの開発に力を入れている。同社は最近、ヒト型ロボット「GR-1」を投入した。

建設

建設業は環境が体系的ではなく、現場の状況も変わりやすいため、高度なヒト型ロボットが必要だ。

重労働で危険を伴う作業と深刻な人手不足から、長期的には最も有望な分野の1つではあるが、導入は10年以上先になるだろう。短期的にはペンキ塗りや発泡断熱材の吹き付けなどでの活用があり得る。

日本の産業技術総合研究所(AIST)が18年にヒト型ロボット「HRP-5P」で示したように、いずれは乾式壁の設置を担える可能性もある。もっとも、唯一のテストは研究所の環境で実施された。

スーパードロイド・ロボティクスは様々な産業用移動ロボットを開発しており、24年にヒト型ロボットを発表する計画だ。建設や油田、産業現場など重労働の環境向けに設計したとしている。

地球以外での修理や組み立てを見据えている企業もある。アプトロニックは最近、自社ロボットの月面など宇宙環境への適応について調べるため、米航空宇宙局(NASA)との提携を更新した。将来的には月面に宇宙飛行士を送り込む「アルテミス計画」で役割を担うかもしれない。

防衛・災害対応

米政府はここ20〜30年、主に防衛向けのヒト型ロボット開発を大きく後押ししてきた。米DARPA(国防高等研究計画局)が主催する災害救助ロボットの競技会「ロボティクスチャレンジ」など米政府の資金源が、この業界の成長の土台になってきた。

ボストン・ダイナミクスは米国防総省から3000万ドル以上の助成金を受けており、一部をアトラスの開発に使っている。一方、アプトロニックは様々な米政府機関から500万ドル以上の助成を受けている。

環境が体系的ではなく複雑なため、この分野で進められている試験運用は知られている限りではない。もっとも、他のタイプのロボットの試験運用が可能な作業を示してくれる可能性はある。例えば、アプトロニックは砲弾を自動で装填するロボットアームの開発に乗り出している。これはいずれヒト型ロボットで可能になるかもしれない。

韓国の国防科学研究所の研究者らは18年、防衛・災害対応の遠隔操作ロボット「HURCULES」を発表した。一方、パル・ロボティクス(Pal Robotics、スペイン)は救助用のヒト型ロボット「TALOS」を開発している。(同社はこのロボットを兵器に転用しない方針を表明している)。

同様に、NASAのジェット推進研究所(JPL)と米陸軍研究所(ARL)が開発した「RoMan」は災害地域の捜索・救助を担う。がれきの除去や障害物を持ち上げるのが目的だ

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