パネル討論には山下知事(中央)や奈良女子大の学生らが登壇した(奈良市)

奈良県が起業人材の育成などを目的に計画する学生寮「ヤング・イノベーション・レジデンス(YIR)」構想が動き始めた。6月中旬に産学官でつくる協力組織の立ち上げイベントが開かれた。県内の大学や高校に通う学生らが入居し、スタートアップの拠点や企業との交流スペースを設ける全国でも珍しい施設で、2030年度の入居開始を目指す。

「前例のない取り組み。みなさんのアイデアをいただいてグランドデザインをつくりたい」。奈良市で14日に開かれた協力組織のキックオフイベントで山下真知事はこう呼びかけた。パネル討論では、大学時代に休学してフランスと米国に留学した自身のエピソードを披露し「色々な人との出会いが自分の行く先を照らしてくれた」と語った。

協力組織には、日本生命保険やシャープなど大手のほか、県内企業や行政・金融機関など産学官の約50団体が名を連ねた。参加メンバーでデジタルトランスフォーメーション(DX)事業などを手掛けるヒロホールディングスの向山孝弘社長は「学生と一緒に研究できるラボのような場ができないか考えたい。地元に活躍できる企業があるのを知ってもらいたい」と期待する。

同県三宅町の予定地ではもともと「大和平野中央田園都市構想」の一環で県立工科大学の整備が計画されていた。ただ昨年就任した山下知事が事業見直しで大学計画を白紙に戻した。取得済みの用地(約8ヘクタール)の新たな活用策としてYIR構想を2月に発表。高校や大学卒業時に県外に流出する若者が多いことや、県南部出身の学生の住居確保などの課題に対応する。

様々な学校の学生らが共同生活する居住エリアのほか、スタートアップが入居して若手起業家と学生らが日常的に交流したり、企業が学生とイベントや学習プログラムを開いたりするエリアなどを設ける想定。日々の生活の中で刺激を受けて成長につながる場にしたい考えで、100〜130人程度の学生を受け入れる計画だ。

基本構想の策定に向けて「自由に気楽にアイデアを出してほしい」と呼びかけた奈良県の担当者(奈良市)

ただ予定地は、大学が多く集まる奈良市からは離れている。周辺には商業施設などもほとんどなく利便性に課題もある。山下知事も「面白いと思ってもらわないと学生に選ばれない」と話すように、寮そのものの機能面やソフト面の魅力が欠かせない。

このため県は、学生や企業の意見やアイデアを計画段階から積極的に取り入れる。イベントには奈良女子大学の学生らも登壇。明石工業高等専門学校で5年間学生寮に住み、同大工学部に編入学した3年生の山下さとさんは「色々な目的がある面白いコンセプトの寮で楽しみ。住みやすくて様々な経験ができるようにアイデアを出したい」と話す。

「間口を広くしているので、自由に気楽に意見を出してほしい」と県の担当者は話す。今後も協力組織の学生メンバーや参加企業を増やし、テーマごとにチームをつくって意見交換などをしてもらう考えだ。先行事例の視察や関連イベントも通じて、24年度中に基本構想を策定する。(高田哲生)

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。