シーメンスのブッシュCEO㊧はドイツのショルツ首相㊥と並び、都市開発計画を発表した(25日、ベルリン)

【フランクフルト=林英樹】機械・システム世界大手のドイツ・シーメンスが街づくり事業に参入する。「デジタルツイン」など独自のデジタル技術を活用し、カーボンニュートラルを実現する。電力・ガスや医療機器事業を分社化し、デジタル産業に注力しており、一般になじみの薄い技術領域をアピールする場として都市開発を選んだ。

「デジタル化と気候中立、競争力で未来都市をつくり、世界の新モデルにしたい」。シーメンスのローランド・ブッシュ最高経営責任者(CEO)は25日、ベルリン西部の建設予定地でショルツ首相と並び意気込みを語った。

元々はシーメンスの工場や社員向け団地があった場所で、76ヘクタールの敷地に3万5000人が居住できる住宅のほか商業ビルや研究機関、学校などを建設する。2035年までの総事業費は45億ユーロ(約7700億円)。シーメンスはこのうち7億5000万ユーロを負担する。

シーメンスが手がける街づくりの完成予想図(イメージ、同社提供)

目玉は欧州最大の廃水熱再利用設備だ。廃水から出る熱を回収し、26年以降、同地域で必要な熱の80%、冷気の50%を供給できるようにする。太陽光など必要な電気はすべて再生可能エネルギーでまかなうと同時に、シーメンスのデジタル統合基盤と人工知能(AI)で需給を最適に制御し、エネルギー効率を高める。

現実世界を精緻に再現した数値モデルを使い、シミュレーションするデジタルツイン技術で検証を重ね、エネルギー消費量を通常の15%減の年47ギガワットに抑制できるよう都市を設計した。日々の細かな変動を正確に監視・予測できる技術も導入し、街全体の温暖化ガス排出量を実質ゼロに抑える。

シーメンスが街づくり事業に参入した理由のひとつが、最先端の都市モデルの輸出にある。ドイツ政府はシンガポールなど海外での都市開発プロジェクトを検討しており、ベルリンで経験を積めばシーメンスが先導役を担えるようになる。

もうひとつの理由が注力するデジタル産業のアピールだ。トヨタ自動車が静岡県裾野市で展開する実験都市「ウーブン・シティ」。自動運転など次世代技術を実証し、車載ソフトの開発力を高めるのが狙いだ。それと同じように街づくりを通じ、ソフトウエアが中心で製品が少ないデジタル産業事業の技術力を訴求していく。

ブッシュ氏は顧客企業にベルリンに来ることを勧めていくとし「ここにシーメンスやパートナー企業の技術を導入し、何が可能になるかを直感的に理解できる技術のショーケースにしていく」と狙いを語る。

建設予定地は「シーメンス・シュタット(ドイツ語で都市の意味)」と呼ばれ、1847年創業のシーメンスが第2次世界大戦まで本社や本工場を置いていた場所だ。かつて主力だった火力発電機器は子会社に移管したが、デジタル産業技術を核に新たな礎を築く。

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