アルバイトの仲介アプリを手掛けるタイミーが26日、東証グロース市場に上場した。時価総額(公開価格ベース)は約1380億円と、スタートアップとしては久しぶりの大型上場となる。売り出した株式の86%は海外の投資家向けで、長期保有の安定株主を増やす。新規株式公開(IPO)後も持続的に事業成長できるモデルケースになれるかが注目される。
創業10年以内のスタートアップの上場で時価総額(公開価格ベース)が1000億円を上回るのは2021年9月に上場したクラウド監視カメラシステムのセーフィー以来となる。タイミーの株価は26日、公開価格(1450円)を28%上回る1850円で初値が付いた。
タイミーは2017年に当時大学生だった小川嶺代表が前身となる企業を創業し、18年に数時間単位で働ける「スポットワーク」の仲介サービスを始めた。登録者は履歴書などを提出する手間が必要なく、飲食店や物流、ホテルなどの求人に手軽に応募できるのが特徴だ。24年4月末時点で登録者数は770万人に増え、スポットワーク市場の成長をけん引してきた。
これまでのスタートアップの上場とは異なる点が多い。既存株主が保有する株式の売り出しのみを実施し、新株発行による市場からの新たな資金調達は実施しなかった。
これを可能にしたのが好調な業績と安定した財務体質だ。利用者の増加などを受けて23年10月期の単独売上高は前期比2.6倍の161億円、税引き利益は7倍の18億円だった。赤字で上場するスタートアップもあるなか、稼ぐ力の強さが目立つ。これを背景に23年には銀行から約130億円を借り入れるなど、手元資金は豊富だ。借入総額は300億円超にのぼる。
売り出した約3230万株についても、全体の86%を海外に販売したのが特徴だ。応じたのは主に運用会社や年金基金などの機関投資家だ。これにより、タイミーの株主の海外比率は上場前の約20%から約49%へと一気に高まった。
グロース市場の主なプレーヤーは国内の個人投資家だ。東京証券取引所によると23年の売買高の約6割を個人が占めた。ただ、値上がり益を狙って短期で売却するケースが多く、株価の「初値天井」や値動きの不安定化の要因にもなっていた。
一方、海外の機関投資家は企業の将来の成長に期待し、株式を長期保有する傾向がある。タイミーはこうした株主を増やすことで、株価の安定成長や株式市場からの将来の機動的な資金調達につなげる狙いがあった。上場時に世界各国から資金を募る事例はこれまでもあったが、タイミーは好調な業績も追い風となった。
こうした財務戦略を支えたのが、八木智昭・最高財務責任者(CFO)だ。三菱UFJ銀行や三菱UFJモルガン・スタンレー証券でIPOやM&A(合併・買収)などを担当した実績を持つ。これまでの経験を生かして、未上場のスタートアップにはハードルの高い金融機関からの融資などを実現した。
日本では小さな事業規模や赤字のままで上場し、その後の成長が伸び悩む「小粒上場」の問題が長らく指摘されてきた。22年以降はIPO市況の低迷で資金調達をしにくい状態が続いていた。タイミーが今回示した財務や資本政策などの工夫は、今後のスタートアップ上場のモデルケースの一つになる可能性がある。
人手不足や副業の解禁などを受け、スポットワーク市場は今後も成長しそうだ。スポットワーク協会(東京・千代田)によると、24年5月末時点でタイミーなど大手4社の登録者を合計したスポットワーカーの数は前年同月比6割増の1700万人となった。
一方、仲介サービスは新規参入などで競争が激しくなっている。メルカリは24年3月に「メルカリ ハロ」を始め、サービス開始から3カ月で登録者数が500万人を超えた。秋にはリクルートがスポットワークに特化した求人サイトを立ち上げる予定だ。
こうした大手はスポットワーク事業への参入で、給与のデジタル払いや求人を出した企業の労務管理といった既存事業との相乗効果なども狙う。資金力も豊富なため、先駆者であるタイミーも対策を迫られる。
タイミーは24年2月、タイミーで働いた実績をもとに企業の正社員採用にも応募できる新サービス「タイミーキャリアプラス」を始めた。採用につながった場合、タイミーは人材紹介料として企業から想定年収の30%を受け取る。すでに日本通運やパレスホテル東京(東京・千代田)などで実績が出ている。
「手軽にバイトに応募でき、報酬もすぐ受け取れるサービスはないのか」。タイミーのサービス誕生の原点は、単発バイトをしていた小川代表のこんな発想だった。働き手や求人企業のニーズに寄り添ったサービスを今後も打ち出せるかが成長を左右する。
(小山美海、鈴木健二朗)
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