ジェットコースター

ドルに対する円相場のグラフを見てみると円の急騰ぶりがわかります。

7月上旬は1ドル=161円台で1986年12月以来37年半ぶりの円安水準でした。

流れが変わったのは7月11日と12日です。アメリカの消費者物価指数が公表され、ドルを売って円を買う動きが出ていたさなか、政府・日銀による為替介入が行われたのではないかという見方が市場に広がり、円相場は一時、1ドル=157円台まで値上がりしました(先月末、財務省は6月27日~7月29日に5兆5348億円の介入を実施したと発表)。

その後は当面の金融政策を決める日銀の金融政策決定会合、FRBのFOMCが近づくにつれ、「利上げに踏み切るのではないか」という見方が多かった日本の円を買う動きが増えてきます。

そして迎えた日本とアメリカの会合(いずれも7月31日)。結果は日銀が追加利上げに踏み切りましたが、会合後の両トップの発言が円高ドル安をさらに加速させます。

7月31日 日銀会見

日銀・植田総裁
「経済・物価の情勢が私どもの見通しに沿って動いていけば、引き続き金利を上げていく考えである」

7月31日 FRB会見

FRB・パウエル議長
「経済は政策金利の引き下げが適切となる時期に近づいている。利下げは早ければ9月の会合で決定される可能性がある」

日本はさらなる利上げの可能性、そしてアメリカは近く利下げがあるという見方が広がって、2つのビッグイベントが終わってもなお、翌8月1日の東京外国為替市場では円高ドル安の流れが続きました。

投機筋は

為替相場の急激な変動は、ヘッジファンドなどいわゆる投機筋の存在が大きいと言われています。

投機筋の動向をつかめるとされている「IMM通貨先物ポジション」は、為替の動向を見る上で市場関係者が注目する指標の1つです。

CFTC=アメリカ商品先物取引委員会が集計したデータを毎週公表していて、投機筋のポジションとされる、非商業部門の“円売りポジション”と“円買いポジション”の差をみると、歴史的な円安局面を迎えた7月2日時点では、円の売り越しがおよそ18万枚だったのに対し、7月23日時点では、円の売り越しが10万枚余り。

投機筋による円売りの動きが急速に弱まっていることがうかがえます。そしてここ最近も弱まっていると見られています。

円安局面は終わったのか 専門家は

ピクテ・ジャパン 金融アナリスト 大槻奈那シニア・フェロー

ピクテ・ジャパンの金融アナリストの大槻奈那シニア・フェローに外国為替市場の先行きをどう見ているのか聞きました。

ピクテ・ジャパン 大槻奈那シニア・フェロー
「投機筋の動きが大きかったので、投機筋が金利の動きを加味して動いてくるだろう。金利がドルの方は低下して、円の方が上がっていくっていうことで、さすがにこれ以上の円売りの投機がきかないと思えば、いわゆるデジタル赤字や新NISAで外国証券を買うなど、元々の本質的な要因で取り引きされるのだろうと思う」

そのうえで「短期から中期にかけての為替のレベル感としては140円、あるいはもう少し円安方向の要素が増えてくれば145円ぐらいとかそれくらいまでかと思っている」と話しています。

一方、これから円高方向に転換するかはまだ不透明だと指摘する専門家もいます。

バンク・オブ・アメリカ 山田修輔 主席日本為替金利ストラテジスト

バンク・オブ・アメリカ 山田修輔 主席日本為替金利ストラテジスト
「投機筋の円売りは落ち着いたものの、個人投資家の海外株購入、企業による対外直接投資が脈々と続いている。こうした動きの元では円売り・ドル買いが続く。さらに今後日銀が利上げをしていくにしても慎重にやるだろうし、FRBの利下げも十分に利下げしないと日米の金利差は大きく縮まらない。そのため円高トレンドに転換したとは言い切れないのではないか」

さらに、今後の円相場の動向を見る上でのポイントとして、アメリカの大統領選挙を挙げ「円安ドル高をけん制する発言をしたトランプ前大統領が再び大統領となるのか、民主党のハリス候補になるのかは円相場の今後の動向を見る上で大きな影響を与えそうだ」と話しています。

リーマンショックのあと長く続いた“金利のない世界”から“金利のある世界”へと転換期を迎えた日本。そしてコロナ後の物価上昇に出口が見えつつあるアメリカ。

日米の金融市場と実体経済がターニングポイントを迎えつつある中、これまでのように金利差に注目した取り引きが続くのであれば、円高が進みやすいという見方もできます。

ただ、さまざまな要素で動く為替市場。アメリカ大統領選挙への注目度はいっそう高まり、為替や経済政策に関する発言が候補者から飛び出せば市場が大きく動くことが予想されます。

円安局面が終わったのかどうかを判断するには時期尚早かもしれません。

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