カナダのアリマンタシォン・クシュタールがセブン&アイ・ホールディングス(HD)に買収提案をした狙いは何か。両社のビジネスの違いを分析すると、日米のコンビニエンスストアのモデルの差ともいえる「食か燃料(ガソリン)か」に行き着く。アリマンタシォンが弱みを補完するならセブンイレブンの日本モデル、強さを伸ばすなら同社の米店舗網の取得が目的として浮かび上がる。
ハワイのセブンイレブン、1店あたり販売は日本の2.6倍
セブンの店舗を視察したい世界の小売り関係者が今、向かう先が米ハワイだ。ハワイはセブンの国・地域別の1店舗当たりの販売額(全店平均日販、ドルベース)が最も大きい。23年時点で平均日販は約1万2000ドル(約174万円)と、円安の影響もあってドルベースでは日本の2.6倍の水準だ。
5月上旬、ハワイ・ホノルル郊外にあるセブンを訪れてみた。ガソリンスタンドを併設しており、トヨタ自動車やフォードのピックアップトラックや大型セダンなどが次々と給油に訪れ、多くの人がそのついでにセブンの店内に入っていった。
日本の一般的な店と同じぐらいの広さの店内で目立つのは、「FRESH(フレッシュ)」や「EATS(イーツ)」などと書かれた大きな冷蔵ケースだ。サンドイッチやハワイ風の具を挟んだパンが並び、日本でおなじみの弁当やパスタ類、手巻きずしなども置かれていた。手巻きずしで2ドル(約300円)強と近隣のスーパーの総菜などと比べて値ごろ感もある。
米国ではコンビニはガソリンスタンドに併設されるケースが多い。利用者は給油のついでに必要な物を買っていく。セブンも発祥の地、米国では併設店舗も少なくない。セブン&アイが2021年に買収した米「スピードウェイ」も給油所併設型だ。大手チェーンによる寡占が進んでいないのも特徴で、投資銀行のジェフリーズによると6割が個人商店という。米国人はスーパーやディスカウントストアで日々の買い物をすることの方が多い。
一方、日本ではコンビニは独自の進化を遂げ、日々の買い物ニーズをつかんでいる。協力企業と組んで多種多様なおにぎりや総菜を開発し、食品分野を強みにしていった。米サークルKなどを運営するアリマンタシォンが売り上げの7割を燃料で稼ぐのに対し、国内のセブンイレブンは揚げ物や焼き鳥などの「ファスト・フード」だけで3割、食品全体では7割を稼ぐ。
セブンが食の日本型モデルを海外に持ち込んで成功したのがハワイだ。1989年、セブン―イレブン・ジャパンの当時の親会社、イトーヨーカ堂が米サウスランド社(現米セブン―イレブン)から58店を買収し、ハワイ事業が始まった。
井阪隆一・現セブン&アイ社長も担当者の一人として90年代にハワイに駐在した。井阪氏はガソリンスタンド併設型の店舗を回って、店内で作っていたサンドイッチを食べたところ、日本の商品と比べあまりおいしくないと感じたという。実際、売れ行きもよくなかった。
「日本で培ったノウハウを生かせば、どの国でも通用するはずだ」(井阪氏)。弁当製造のわらべや日洋ホールディングスといった日本でも取引がある企業と連携し、現地の食習慣も意識しながら、新鮮で安定した商品の供給システムを整えていった。
ベストセラーとなったのが94年に売り出した「スパムむすび」だ。ハワイで親しまれるスパムと、ご飯をのりで巻いたもので、同商品シリーズは1日に1店舗あたり約250個売れるという。和風のかつおだしを使ったハワイ式のラーメン「サイミン」も人気となった。
セブンはその後、ハワイの成功体験を各国に広げていった。米国本土では2010年代から取引先と一体になって改革を進めている。セブンの食の強さを支える取引先の一つ、わらべや日洋HDは23年秋にバージニア州に工場を建設し、オハイオ州にも工場を造る計画だ。
米セブンはサンドイッチといった「フレッシュフード」などの売り上げ構成比を25年度までに23年度より10ポイント以上高い34%に引き上げる方針で、食の深掘りを通じ同業他社との違いを鮮明にしていく。
アリマンタシォンも食に関心か
そのようなセブンの取り組みを横目で見ていたのがアリマンタシォンかもしれない。同社は足元では給油所併設型に力を入れているように見える。24年1月には、フランス・エネルギー大手のトタルエナジーズから給油所を約30億ユーロ(約5000億円)で買収したと発表した。セブン&アイへの買収提案も、給油所併設型の米国店舗網が狙いとの指摘もある。
一方で、アリマンタシォンは食品分野も重視している。23年10月に発表した中期計画の中で強化する項目の一つとして、プライベートブランド(PB)を含む食品を挙げた。今月19日に米ペンシルベニア州などでコンビニを運営する企業の買収を発表した際は、発表文で買収先の説明として「食品を第一に考えている」と言及した。
米サークルKも店内調理のピザやハンバーガーに力を入れる。オンラインで注文して出来たてを受け取れる仕組みを導入するなど、インフレで節約志向を高める消費者の外食需要を取り込もうとしている。
アリマンタシォンが強みとするガソリン販売は価格に左右されやすい。世界的な脱炭素社会の流れもあり、中長期的にガソリン車の利用は減っていく。ガソリンスタンド併設型のコンビニが多いなか、消費者の来店動機を生み出す上でも食分野に重きを置くのは自然の流れともいえる。
セブンイレブンは今年、日本で開業50年を迎えた。買収形式などアリマンタシォンの提案の詳細が明らかになれば、セブンが築き上げてきた「日本型モデル」を同社が、そして世界がどう評価しているかが見えてくる。
(原欣宏、ニューヨーク=朝田賢治)
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