戸籍謄本の電子交付が可能になれば、相続手続きも簡素になる

政府は相続手続きに必要な戸籍謄本などの戸籍証明書に関し、全国の自治体で電子交付できるようにする。家族が死亡したときの相続手続きを巡る負担を軽減する。提出先となる金融機関や法務局、税務署にデータで提出できる仕組みを念頭に置く。行政手続きのデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めて煩雑な手間を減らす。

法務省とデジタル庁が連携し、2024年度中に結論を出す。すでに電子データ化されたおよそ1億1000万件の戸籍を対象とする。パソコンやスマートフォンを使ってインターネット上で申請から交付までを完結できるシステムの整備を目指す。

パスポート(旅券)の新規発行は24年度中に行政手続きの個人向けサイト「マイナポータル」から申請し、紙の戸籍謄本を提出しなくてもよくなる。相続手続きの電子化の具体案はこれからだが、同じような仕組みになる可能性はある。

法務省のシステムを介してPDFなどの形式で電子化された戸籍謄本が申請者のスマホやパソコンに届くイメージだ。税務署などにはPDFのまま提出できる。

相続手続きでは戸籍謄本や遺産分割協議書、相続人の印鑑証明書といった複数の書類を金融機関や法務局、税務署などに提出する必要がある。

なかでも法定相続人を特定する際は、被相続人が生まれてから亡くなるまでのすべての本籍地の戸籍謄本と除籍謄本といった戸籍証明書を各自治体から書面で集めなければならない。

電子交付ができるようになれば市区町村の窓口に行ったり郵送したりする手間を省ける。

22年に死亡した人は全国で156万人と前年比で9%増えた。相続手続き用を含め、22年度に発行された戸籍証明書は前年度比5%増の4059万件にのぼる。

法務省によると戸籍証明書を電子交付している自治体はまだない。申請手続きだけなら、270ほどの自治体がマイナポータルなどを使ったオンライン申請を導入しているが、全国の市区町村の15%程度にすぎない。

政府は6月に閣議決定した規制改革実施計画に、戸籍証明書の電子交付やオンライン申請について全国で実現を目指す案を盛り込んだ。

実現に課題もある。

電子交付に対応する市区町村はシステム改修が必要で、その費用を国と自治体のどちらが負担するのかを検討しなければならない。電子データでの提出を受けることになる金融機関なども同様だ。

国のシステムで電子交付する場合は自治体の事務を国が担っていいのかという問題も残る。

これまでも政府は戸籍に関する手続きのDXを進めてきた。

19年に改正戸籍法が成立し、24年3月から戸籍情報とマイナンバーの連携が可能になった。これらの新たな仕組みを活用し、年金や児童扶養手当の申請、結婚の届け出、パスポート申請などで必要だった戸籍証明書の提出を順次不要とする。

全国の市区町村は1994年以降、戸籍を紙から電子データに置き換えてきた。氏名に使う文字が適合しないものや存在しない日付などデータにできない戸籍は今回の電子交付の対象外となる。

現在、紙に印刷された戸籍証明書の取得は自治体の窓口で受け取るほか郵送やコンビニエンスストアの複合機で入手できる。

マイナンバーカードを使ったコンビニ交付は本人や同一の戸籍に入っている人が対象だ。別の戸籍に入る親の証明書を子どもや代理人が取得するには地方自治体の窓口に行ったり、郵送を依頼したりする必要がある。

法務省が3月に始めた本籍地以外の市区町村で戸籍証明書を取得できる「広域交付」の仕組みを使えば、相続手続きでも1カ所の自治体の窓口に行けば被相続人の戸籍証明書をたどれる。窓口に直接出向く必要は残る。

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