半導体分野の研究開発で先進的な取り組みを行っている米ニューヨーク州のレンセラー工科大を視察する鈴木直道知事=北海道提供

 北海道の鈴木直道知事は19日から23日にかけて訪米し、ニューヨーク州の最先端半導体研究開発拠点「オールバニ・ナノテク・コンプレックス」などを視察した。道は次世代半導体の国産化を目指すラピダス(東京)が工場の建設を進める千歳市を含む道央圏で、半導体関連企業や大学などが集積する「複合拠点」の青写真を描いている。視察を構想の実現に向けた足掛かりとしたい考えだ。【金将来】

 「日々、技術が進展する中で、世界トップの最新半導体技術を直接肌で感じることができたのは今後に向けた重要な一歩となった」。鈴木知事は27日、帰国後初の定例記者会見で熱っぽく手応えを語った。

 米北東部のニューヨーク州は、多くの半導体関連企業が研究開発拠点を置き、コロンビア大やニューヨーク州立工科大などの大学研究機関も数多く所在する。産官学が連携した半導体複合拠点が確立した背景に、長年にわたる州の手厚い支援があったとされる。

 産官学連携の象徴となっているのが、非営利法人「ニューヨーク・クリエイツ」の運営するナノテク・コンプレックスだ。総面積約15万3000平方メートルの複合拠点で、IBMや東京エレクトロンといった半導体関連企業が敷地内にそれぞれの事務所を構える。

 日本貿易振興機構(JETRO)の分析リポートによると、材料メーカーや製造装置メーカーなどがナノテク・コンプレックス内に最先端の設備を導入。研究者やパートナー企業は、あらゆる半導体製造プロセスを研究、開発できる。パートナー企業が競合する場合もあるが、情報を保護するシステムが機能し、機密性を保ちながら研究、開発に取り組める環境も整えられているという。

千歳に半導体関連30社が進出予定

 道が道央圏で描くのは、ナノテク・コンプレックスを「教科書」とした製造・研究・人材育成の複合拠点の形成だ。鈴木知事の訪米に先駆けて、足元を固めてきた。2023年7月に設立された一般社団法人「北海道新産業創造機構」を中心として、半導体関連企業に対する支援・相談体制を強化。千歳市の次世代半導体拠点推進室によると、現時点で半導体関連企業約30社がすでに千歳市内への進出を決めているという。

 教育機関も道の動きに足並みをそろえる。今年1月に道内の4高専は「北海道地区4高専半導体人材育成連携推進室」を設立し、人材育成の戦略的な方針を策定した。北海道大は、ニューヨーク州のレンセラー工科大と半導体分野における研究開発、人材育成の協力の推進に向けた合意書を締結した。

 また、複合拠点の中心企業となるラピダスは2023年4月からナノテク・コンプレックスに約130人の技術者を派遣。IBMと協業で2ナノメートル級の次世代半導体の量産技術研究に取り組んでいる。IBMはすでに2ナノメートル級の開発に成功した。ラピダスは量産技術を日本に持ち帰り、25年にパイロットラインを稼働、27年に量産を開始する計画だ。

 今回の鈴木知事の訪米に伴い、道はニューヨーク州経済開発公社、ニューヨーク・クリエイツの3者で協力促進の覚書(MOU)を締結した。今後、枠組みの構築を進め、ラピダスへの効果的な支援や技術者の相互往来などに弾みをつけたいという。

道が目指す具体像まだ示されず

 一方、今年4月に道が策定した「半導体・デジタル関連産業振興ビジョン」を見る限り、道が目指す半導体複合拠点の具体像は示されていない。道次世代半導体戦略室の担当者は「まずはラピダスの工場をしっかりと稼働させるのが最優先だ。ニューヨーク州のように多数の企業、研究機関が在籍する複合拠点を確立させるのはその後。1~2年の短期的な話でなく、10年、20年と長期的な計画が不可欠になる」と話している。


米ニューヨーク州の半導体エコシステムを形成する主な企業・大学

IBM、アプライドマテリアルズ、エドワーズ・バキューム、エヌビディア、グローバルファウンドリーズ、コーニング、東京エレクトロン、マイクロン・テクノロジーズ、メンロー・マイクロシステムズ、コロンビア大、コーネル大、ニューヨーク州立工科大、レンセラー工科大、ロチェスター大

 ※米国半導体工業会(SIA)から

千歳市の工業団地に立地する主な半導体関連企業

ラピダス、パナソニックインダストリー、北海道シーアイシー研究所、ミツミ電機、北海ケミー、多治見無線電機、大成工業、クリーンテクノ、SUMCO、エア・ウォーター、アルファテック、デンソー北海道

 ※千歳市半導体関連企業マップから

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