竹中工務店は24日、コンクリート廃材を再生した生活雑貨を発売した。超高層ビルやインフラの建設が本業の大手ゼネコンが消費者向けの商品を手掛けるのは珍しい。背景には相次ぐ再開発であふれる廃材のリサイクルが追いつかない現状がある。資源循環と経済成長を両立する「循環経済」(サーキュラーエコノミー)の実現が急務だ。

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東京・代官山の蔦屋書店には、鉱石をちりばめたような卓上コースターを並べた一角がある。1枚1210円とやや高価だが、竹中工務店が雑貨ブランドと協業して開発したこの商品には「物語」がある。三井不動産が東京・日本橋で進めるビルの建て替え現場から出たコンクリート廃材を再利用しているのだ。消費者は廃材の由来を知ったうえで再生商品を購入する。

店舗を訪れた東京都渋谷区在住の40代男性は「建設現場の廃棄物をアートに昇華するのは地球に対する新しい責任の取り方だと思う」と、商品に込められた物語を評価した。

コースターの原料に使うコンクリ廃材は東京・日本橋で三井不動産が進めるビルの建て替え現場から回収した

コンクリート造ビルなら柱の1本から数百枚のコースターが作れる。商品に再生できるコンクリート廃材はごく僅かだ。それでも竹中工務店の田島勇気シニアチーフプランナーは「商品への廃材活用を通じて建設業界の間口を一般消費者に開きたい」と語る。その言葉の裏には建設現場が抱える深刻な問題がある。

中間処理場の収容能力が逼迫

建設廃棄物の半分を占めるコンクリート廃材の発生量は、国土交通省によると年間で約3690トン。通常は中間処理業者が有料で破砕し、路盤材として道路の下地材に再利用する。これまでコンクリート廃材の再資源化率は99%近くで推移してきた。

だが雲行きが怪しくなっている。全国解体工事業団体連合会(東京・中央)によると、2024年はじめから都内の中間処理場では単価が上がり始めた。足元では23年後半と比べて2倍近くに上昇。福本克也副会長は「首都圏の大規模再開発が続いて解体工事が多く、中間処理場の収容能力が逼迫しつつある」と説明する。

大手ゼネコンの関係者からも「コンクリート廃材を受け入れる量に制約があると言われて解体工事の工期を見直した」といった声が聞かれた。

事実、供給過多だ。国交省の「主要建設資材需給・価格動向調査」によると、数字が小さいほどコンクリート廃材からつくる再生破石の在庫が豊富とする指数が東京では低下傾向にある。直近1年間をみると在庫余剰が通常より多いとされる1.5に近い水準で推移している。

価格も上がらない。建設物価調査会(東京・中央)によると路盤材向けコンクリート廃材の価格は近年は横ばいで推移する。新品材料の価格と比較すると、24年7月の価格差は1立方メートル当たり3950円。10年間で46%も広がった。

コンクリート廃材の在庫は一段と増えると見られる。行き先となる道路での需要が減っているからだ。国交省によると、国や自治体の道路投資額は03年ごろまで10兆円を超えていたが近年は6〜7兆円台で推移。人口減少が進む地方ではインフラ投資の縮小が予測される。再開発が活発な都市部から地方にコンクリート廃材を輸送するにしてもコストや環境負荷が大きい。

「100%再生」の実現が社会問題化を防ぐ

ゼネコン各社はコンクリート廃材の再生に向けて知恵を絞っている。竹中工務店が手掛けた生活雑貨はそのごく一部だ。リサイクルを本格的に進めるべく、竹中工務店は鹿島などと組み、コンクリート廃材を使った再生コンクリートの実用化に向け動く。

代官山蔦屋書店に設けたコンクリート廃材を再利用した生活雑貨の売り場(24日、東京都渋谷区)

コンクリートは製造時の品質管理が不十分だと劣化の恐れがある。竹中工務店の小島正朗主席研究員は再生コンクリートが新築向けに普及しなかった背景について、「コンクリート廃材を使うと経年劣化が生じる懸念があり、その課題を取り除くのに大きな手間がかかったため」と説明する。

コンクリート廃材を加工する過程で材料としての品質を高め、新築にも耐える再生コンクリートを開発中だ。鹿島は東京都調布市に研究所を建てる際、床の一部にコンクリート廃材を使って完成から10年間の変化を研究してきた。再生コンクリートは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成を受けて28年度までの実用化を目指す。

大林組は抜本的なコンクリート廃材の削減に挑む。26年に東京都清瀬市で竣工する研究所の建て替え工事では、元の建物の基礎部分を分割して再配置することで、コンクリート基礎の3割超を再利用で賄う。コンクリート内部の鉄筋を溶接で延ばすなど施工の手間やコストは掛かるものの、大幅にコンクリート廃材の発生を減らせる利点がある。

国もコンクリート廃材の活用を後押しする。コンクリート原料である砂利など天然資源の枯渇リスクを低減できるからだ。国交省はビルのコンクリート原料に特別な構造評価を得ることなくコンクリート廃材を使いやすくするよう、使える部位や課題を明確にする作業を進めている。25年度中には方針を示す予定だ。

増え続けるコンクリート廃材は社会問題となりかねない。環境省によると、産業廃棄物の不法投棄の発覚件数は2000年代初頭まで年間1000件を超えていた。不法投棄の8割弱は建設ごみが占めるといわれる。03年度には岐阜市の山間部でコンクリート片など56万トン超の不法投棄が発覚している。

現在は減少傾向にあるものの、直近でも年間100件超で推移している。コンクリート廃材を100%再利用する循環経済の実現は、社会問題化を未然に防ぐ手立てにもなり得る。

(橋本剛志)

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