28日、宇宙船「クルードラゴン」は大型ロケットに搭載されて打ち上げられた(米南東部フロリダ州)=AP

【ヒューストン=花房良祐】米宇宙開発会社スペースXは米東部時間28日午後(日本時間29日未明)、南東部フロリダ州で宇宙船「クルードラゴン」を大型ロケットで国際宇宙ステーション(ISS)に向けて打ち上げた。航空宇宙大手ボーイングの新型船「スターライナー」のテストパイロット2人がISSから帰還できなくなったため、クルードラゴンに搭乗して地球に戻る。

ボーイングは開発中のスターライナーを6月に初めて有人で打ち上げた。米航空宇宙局(NASA)のテストパイロット2人がISSに到着したが、スターライナーの推進装置に不具合が発生。安全への懸念から帰還を断念した。

取り残された格好となった2人を「救出」する役割を担うのがスペースXのクルードラゴンだ。

ISSは各国から7人の宇宙飛行士が集まって科学実験や操縦などを担当し、半年おきにクルードラゴンとロシアの宇宙船「ソユーズ」を使ってメンバーを入れ替えている。

28日に打ち上げたクルードラゴンには宇宙飛行士2人が搭乗した。従来計画では4人搭乗する予定だったが、搭乗者を減らしてスターライナーのテストパイロット用に2人分の空席を確保した。2025年2月にテストパイロット2人を含む4人が搭乗して帰還する。

短期間で異例の計画変更となり、NASA幹部は28日の記者会見で「有人の宇宙飛行は複雑だ。事態に素早く対応する必要がある」と話した。

スペースXの宇宙船「クルードラゴン」には宇宙飛行士2人だけが搭乗した=NASA提供・AP

1週間程度だったはずの宇宙滞在予定が8カ月超に延長される格好となったテストパイロット2人だが、それぞれ米海軍出身で複数回の宇宙滞在経験を持つベテランだ。うち1人はこのほどISS船長に就任。操縦や保守・点検といった業務をこなしている。

今後の焦点はボーイングがスターライナーの開発を最後までやり遂げられるかだ。推進装置の不具合が発覚してから同社とNASAは有人で帰還させるかを巡り激しい議論を交わした。

ボーイングはデータなどを分析したところ安全だと主張する一方、NASAは懸念を示した。NASAがボーイングを押し切った形で有人帰還を中止した。

ところが、スターライナーを9月上旬に無人で帰還させたところ、米西部への着地に成功した。NASAの杞憂(きゆう)だったことを証明した格好だが、スターライナーの推進装置に不具合が発生したことに変わりはない。

スターライナーの次回の打ち上げ時期は未定だ。開発の遅れでボーイングはこれまで約16億ドルの損失を計上しており、早期に実用化してこれ以上のコスト増加を回避する必要がある。

ボーイングは宇宙開発だけでなく軍用機の開発も難航し、損失の計上が続いている。同社の防衛・宇宙部門トップが更迭されたことが20日までに分かった。民間航空機でも製造品質問題に揺れているうえ、工場でストライキが発生。経営に逆風が続く。

NASAは米国としてISSへの移動手段を2つ確保したい考えで、スターライナーに期待を寄せる。片方に不具合が発生したらバックアップできるからだ。

だが、ISSは30年までに退役する計画だ。ボーイングはスターライナーを実用化してもISSへの輸送業務の収益性は見通しづらい。今後開発が見込まれる民間宇宙ステーションの需要を開拓する必要がありそうだ。

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