靴磨き職人たちの競技大会が活況を呈している。顔が映り込むほど革を輝かせる「鏡面磨き」の美しさを競うもので、「もはや芸術の域に達している」との声も。会場には多くの観客が訪れ、競技の様子は動画でウェブ配信されている。革製品の業界団体などが開いており、個性豊かな職人たちをPRすることで、市場の活性化も狙う。
福岡市の百貨店「岩田屋本店」の特設会場で8月17、18の両日、壇上の靴磨き職人たちが黙々と手を動かしていた。課題である新品靴を制限時間内に磨くルールで、仕上がりの美しさを競う。競技中には司会者がマイクで実況中継し、選手にこだわりなどを聞いていた。リアルタイムで動画がウェブ配信された。
競技会は「靴磨き選手権大会」で、革製品メーカーなどでつくる日本皮革製品メンテナンス協会が主催している。2018年に東京の銀座三越を会場に三越伊勢丹が企画したのが始まりで、今では航空会社や大手保険会社なども協賛し、プロ・アマチュア問わず約60人が全国から集まる規模になった。東京、大阪の2会場で開催された23年は、計1800人の観客が集まった。
24年は福岡市も会場に加わった。10月までに福岡、東京の2会場で各2日間の1、2回戦を開き、勝ち抜いた計12人が11月に大阪市での最終戦に集う。
選手権でプロデューサーを務める田代径大さんによると00年代以降、国内外のメーカーからワックスやクリームなどの新商品が相次いで発売され、鏡面磨きが身近になってきた。職人の間でも多様な営業スタイルが生まれている。
靴磨き専門店が各地に生まれ、数千円で鏡面磨きを手がけ、カウンターごしに客と会話しながら磨く職人も多い。イベント会場やカフェなどに出向いて客との交流を楽しんだり、ホテルや企業へ出張営業したりする職人もいる。スーツからカジュアルまで服装も多様で、ネット交流サービス(SNS)や動画投稿サイトを駆使し、ファンも獲得している。
靴磨きサービスは、身だしなみにこだわる人のほか、結婚式や重要な商談など、「ここぞ」という時に頼む人もいる。磨き上げられた靴の美しさに驚く客も多く、選手権に出場する職人らも「靴にパワーを与える」「お客様の人生に寄り添える」と仕事の喜びを口々に語る。
田代さんは「靴磨きは単なる生計の手段ではなく、生き方として魅力を感じる若い人が増えている」と話す。選手権では出場者の生き様を観客に伝える演出にこだわる。
そんな職人たちの鏡面磨きはどのようなものか。ホコリや汚れを落とした後にクリームで革に養分を与え、ワックスで光らせる。ただ光らせればよいのではなく、つま先を深く輝かせ、靴のデザインに合わせて濃淡をつけるのがポイントだ。競技では、革の状況を瞬時に見極め、左右ムラなく奇麗に仕上げる集中力や判断力も試される。
田代さんによると、靴を立体的に輝かせる職人が多いのが日本の特徴で、「世界的に見てもレベルが高く芸術の域に達している」と評価。英国で17年に始まった靴磨きの世界大会では、過去の優勝者のうち4人が日本人だという。
オフィス軽装の普及などで革靴離れが進む一方、スーツや革靴が好きな人は、より手入れにこだわる「二極化」が進んでいる。選手権の会場となる百貨店では革製品や最新のケア用品もPRしており、「靴磨きの魅力発信を通して、革製品の良さを再発見してほしい」(百貨店関係者)と、市場の活性化を期待する声も聞かれる。【久野洋】
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